『老化は治療できるか』
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浮かび上がってくるのは 睡眠、運動、食事の重要さ
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
河合香織著『老化は治療できるか』は、一見して奇妙なタイトルと見える。だが老年期医学は急速に進歩しており、老化を「治療」することが今や視界に入りつつある。本書はトップ研究者たちへのインタビューを基礎とした、この分野の最前線リポートだ。
すでに、ゲノム編集などの技術をフルに使えば、最大寿命を延ばすことは可能だという。また、一〇年か二〇年後には、一〇〇歳まで元気で寝たきりにならず、一二〇歳まで生きられる時代が来ると予測する研究者もいる。いくつか抗老化薬の候補も見つかっており、その作用も解明されつつあるから、人生一二〇年時代は夢物語などではない。ただしそれに便乗した怪しげなビジネスも横行しており、気軽に手を出すべきものではなさそうだ。
こうした研究が進むにつれて浮かび上がってくるのは、睡眠や運動、食事といった、一見ごく当たり前の事柄の重要さだ。本書ではこれらのことについても、かなりのページが割かれている。奇跡の薬や先端技術を待つより、まずはよく運動し、よく眠ることこそが本道に違いない。
本書のもう一つの特徴は、長くなった老後をいかに生きるかについても、一章が費やされている点だ。老年期に入っても社会とのつながりを保ち、年をとったからと諦めることをせず、脳の「思春期」を取り戻す。なかなか難しいことではあるだろうが、長い老後を見据えて一読の価値があるメッセージだ。