令和のお江戸で、我拶(がさつ)もんに出逢う 神尾水無子

対談・鼎談

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我拶もん

『我拶もん』

著者
神尾水無子 [著]
出版社
集英社
ISBN
9784087718621
発売日
2024/02/26
価格
1,925円(税込)

第36回小説すばる新人賞受賞記念エッセイ 神尾水無子「令和のお江戸で、我拶(がさつ)もんに出逢う」

[文] 神尾水無子(作家)

令和のお江戸で、我拶(がさつ)もんに出逢う
神尾水無子

神尾水無子
撮影=藤澤由加

 数年前、神保町の神田古本まつりにて。
 渉猟(しようりよう)していると、江戸時代の資料を並べた書店を見つけた。開いたページに「我拶」の文字が。その時、主人公の一人、桐きりゆう生が背後から「よーう」となれなれしく、わたしの肩を叩いた。チーム「我拶もん」の、メンバーが集まり始めた瞬間だった。
 深川江戸資料館からの帰り道にて。
 乙粋(おついき)な芸妓のお姐(ねえ)さん衆が、紳士を取り囲みながら歩いていた。華やかな雰囲気に、道行く人が振り返る。ふと、一人のお姐さんと目が合った。その時、匂い立つような艶(あで)な姿の粧香(しようか)が現れ、物語のシーンさながらに、わたしに流し目をよこした。
 贔屓にしている噺家(はなしか)さんの高座にて。
 大好きな演目『芝居の喧嘩』。旗本・水野十郎左衛門(みずのじゆうろうざえもん)の四天王と、侠客・幡随院長兵衛(ばんずいいんちようべえ)の手下(てか)が大立ち回りを繰り広げる。その時またもや桐生が、さらに宿敵の小弥太(こやた)も立ち上がり、取っ組み合いの喧嘩を始めた。桐生の陸尺(ろくしやく)仲間、翔次(しようじ)と龍太(りゆうた)が懸命に止めに入る。
 自宅の作業部屋にて。
 わたしは歴史について専門的に学んだことはない。小説講座の先生から「あなたは時代ものを書いたら」と勧められ、慌てて書店に走った。手にしたのは中学生向けの江戸時代の図鑑。それから少しずつ、小難しい本を読むようになり、それらしきものを書き始めた。
 編集者兼ライター時代の習い性か、ものを調べる作業は楽しかった。その後、何年も結果を出せず、何本も日の当たらない拙作を書き散らかすとは夢にも思わず。けれど今、信じられない栄誉を授かった。
 小説すばる新人賞に向けて日々、努力されている皆さまへ。
 こんな作者でも受賞できるんだな、と少しでも励みになれば幸いです。

神尾水無子
かみお・みなこ●1969年東京都生まれ

青春と読書
2024年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

集英社

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