『世の中と足並みがそろわない』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
ふかわりょう×カズレーザー・対談「足並みがそろわなくたって、いいんじゃない」
[文] 新潮社
タモリさんと所さんの存在感のある軽さ
ふかわ 46歳という年齢のせいかもしれませんが、最近はテレビに出ても、「絶対に爪痕を残そう」ではなくて、「爪跡を残さないでいよう」と、時にふかわりょう色は消して、なんとなくその場を漂う存在でいるように意識しています。
カズ 僕も同じです。
ふかわ え、ちょっと! 悟るのが早いよ(笑)。
カズ 36歳で悟っちゃいました(笑)。そもそも僕は「自分はお笑いで天下はとれない」と意識した上で芸人を始めています。だから「どうやったらテレビに出られるか」を考え、テレビに出られた後は、「どうやったらバラエティ番組のひな壇に残れるか、テレビに出続けられるか」を考えてきました。
ふかわ ゴールが「テレビ」なんですね。
カズ そうなんです。だから、漫才で僕がボケて相方の安藤なつさんがツッコむ、あるいはその逆の時よりも、バラエティ番組でMCの人がツッコむ時の方が、はるかに大きな笑いが起きることに気が付いて、二人だけで成立させる世界を作る漫才って、僕らには向いていないと思ったんです。だから、漫才以外のことも率先してやる道を選んだのですが、その結果、仕事はどんどん増えていって。
ふかわ なるほど。カズさんがすごいのは、そういう道を選んでも、「あいつなんでテレビに出られているんだよ」と後ろ指を差されない強さがあるところですよ。僕なんて、「ふかわって結局なんなの? ふかわの何が面白いかわからない」ってネットでけちょんけちょんに書かれていますから。
カズ そういう記事って、つい目に入っちゃいますよね。
ふかわ ええ。最初は気になりましたが、最近は「しめしめ、君たちに何が面白いかわかられてたまるか」って思うようになりつつあって……。ある種の“こじらせ”なのかもしれませんが。
カズ というか、何者かわからないって最強じゃないですか!
ふかわ それを言ってくれて、本当にありがとう(笑)。そういうコンプレックスと向き合い悶々としてきた結果、「芸人とは」という枠にとらわれず、これからも好きなこと――自分の心が動くことをやって勝負していくしかないと思えるようになりました。
カズ 確かに、枠組みって壊すために存在しているとも言えますし。
ふかわ その上で、いつかは、タモリさんや所ジョージさんのように、力を抜き浮力だけで芸能界を漂えるようになりたいものです。安心感・安定感がありつつも、存在するだけでその場がすごく軽くなる。おこがましいかもしれませんが、そんな存在に憧れています。
カズ お二人ともお会いすると、お聞きしていた以上に軽やかでいらっしゃり、僕も驚きました。だから、ふかわさんがタモリさんについて書かれたエッセイのタイトルが「浮力の神様」だったのも絶妙だと思いました。それこそお二人とも、「何者かはわからない」最強の存在ですよね。
ふかわ 安心して下さい、カズさんも近い将来、そういう唯一無二の存在になります。
カズ え!? またしてもどういうことですか?
ふかわ わかりやすくクイズ番組で言えば、これまでも芸人に限らず、俳優や歌手など様々なジャンルの芸能人が出演する椅子が用意されていました。今、その「芸人の椅子」にカズさんが座っている。でも、そんな「芸能人の椅子」が置かれていない場所に、カズさんは新たに椅子を置きそうな気がしているんです。
カズ フジテレビの取締役とかですか?
ふかわ そこは既に、立派な方が座っていらっしゃいますから(笑)! 何と言うか、「そういう立ち位置があったか」と誰もが驚くような椅子です。
カズ それは絶対に探さないといけないですね。プレッシャーだなぁ。
ふかわ タモリさんや所さんが唯一無二の立ち位置を築かれたように、意図して見つかるものではないような気がしています。自分で言うのもなんですが、僕の未来予想って当たりますよ。自分の未来だけはぼんやりとしているけど……。
カズ もし仕事が減ったら、椅子なかったじゃないですか! って抗議しますからね(笑)。
ふかわ いやいや違います、仕事量の増減ではなくて存在価値のことなんです。ある人が言っていて印象的だったのが、例えば漫才で笑いをいくつとったか、「数」も一つの指標だけれど、たとえ1回しか笑いが取れずとも、その1回がまったく新しい角度で生まれた笑いならばそれは素晴らしいことだよね、という。
カズ それじゃ、ますますプレッシャーがかかるじゃないですか。
ふかわ カズさんだからこそ、僕は期待しているんですよ(笑)。