小橋めぐみ 性とか愛とか
2024/06/07

小橋めぐみが入院時に感じた「心身がボロボロになっていく」感覚…10代には読めなかった作品と重なる

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 乱交パーティー、ドラッグ、暴力。腐ったパイナップル、ゴキブリ、精液。

 米軍横田基地にほど近い東京の福生、米兵用に建てられた「ハウス」で暮らす主人公リュウと仲間たちのインモラルな日々は、身の回りに新鮮なものが一切なく、何かの残骸だらけだ。

 ドラッグにもセックスにも救われなくなっているのに、リュウはそこから抜け出そうとはしない。慣れないドラッグを仲間に打たれては酩酊し、パーティーではどぎついメイクを施され、ダンスを踊らされ、吐き気を催しながら黒人のペニスを口の中に入れられる。

 仲間と書いたけれど、仲間なのかどうかも分からない。誰かが暴力を振るわれても助けない。ただ何となく、みんなでいるだけだ。

 リュウはそんな目の前の出来事を乾いた目で眺めている。悲しみも怒りもなければ、喜びも楽しさもない。その視線はまるで、動かない人形の目のようだ。見たまま、されるがまま―。

 最後の最後、リュウは幻覚を見る。グラスの破片を自らの腕に突き立て、その破片に「限りなく透明に近いブルー」を見て救われる。

 タイトルに惹かれ、10代の頃にこの小説を手に取った。けれど、自分がいる世界との乖離が激しく、途中で読むのを止めてしまった。久しぶりに読み直してみると、荒んだ日々の描写の凄まじさに震え、退廃というヴェールに覆われた一瞬一瞬をすべて記憶に焼き付けられるかのように感じた。

 私は6年前に、病気で1か月間、入院したことがある。24時間点滴を受け、その針を3日に一回抜いて違う場所に刺す。これを繰り返していたら、腕がアザだらけになり、ジャンキーの腕みたいだなと感じた。

 治療をしているのに、心身がボロボロになっていく思いがした。病室は4人部屋。私のベッドは窓際で、毎日窓から外を眺めていた。入院して2週間ほどたった夜中、眠れずにずっと外を見ていたら、だんだんと夜が明け始めた。瞬間、強烈な光が真っ直ぐに私に向かって来た。この光は今、私のためだけに存在しているのだ、となぜか思った。

 セックスもドラッグも暴力もない。リュウが辿ってきた道とは全然違う。でも、あの明け方、確かに私はリュウと同じ、限りなく透明に近いブルーに救われた。

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