「何もせず給料が上がっていくことはない」サイボウズ社長が語った、給料が上がる人

対談・鼎談

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わたし、定時で帰ります。3

『わたし、定時で帰ります。3』

著者
朱野 帰子 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784101004631
発売日
2023/11/29
価格
880円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

朱野帰子×青野慶久・対談「社長、賃上げってぶっちゃけどう思いますか?」

[文] 新潮社


青野慶久さん

朱野帰子×青野慶久・対談「社長、賃上げってぶっちゃけどう思いますか?」

 物価が高騰するなか実質賃金はマイナスの状況が続いている日本。

 昇給も少なく、ボーナスにも期待できない中で給料を上げるにはどうしたらいいのか?

 賃上げをテーマにした最新作『わたし、定時で帰ります。3―仁義なき賃上げ闘争編―』(新潮社)を刊行した朱野帰子さんが、サイボウズの代表取締役社長・青野慶久さんに、評価される人材に必要なことを聞いた。

『わた定』社長にそっくりでした

朱野 サイボウズさんを知ったのは『わたし、定時で帰ります。』(以下『わた定』)一作目を書いた後だったのですが、物語の舞台となる架空の会社・ネットヒーローズの歴史――黎明期にみんなが過重労働も顧みず働いて、結果、数年経って離職率が上がり、会社の危機に陥ってしまう。そこから一転してどこよりも働き方改革を進める……という歴史が、現実の会社であるサイボウズさんとそっくりで驚きました。それと、社長の青野さんの雰囲気が、私が作品の中で「社長」としてイメージしていた姿に似ていて。

青野 『わた定』を読んで、ドキュメンタリーなんじゃないかと思うぐらい身近でリアルに感じましたが、朱野さんにとっては僕がそうでしたか。

朱野 執筆時、すでに存じ上げていたら書けなかったと思います。
 三作目を考える中で「残業しないと生活ができない」という意見を耳にしました。「働き方改革はいいもの」という圧力の中で隠された「給料が減る」ことへの不満に今作では焦点を当てています。難しいテーマでしたが、青野さんに以前お会いした際、「給料は働き方改革の本丸です」と言われたことにも勇気づけられて書きました。
 二〇一八年にサイボウズのエンジニアの方が給与交渉をされたというネットの記事が出ましたよね。しかもSNSという公開の場で。当時、青野さんは経営者としてどういう心境でしたか。

青野 すごくいいことだと思いました。僕たちの会社が大切にしているのは「一人一人が自分の欲しいものを主張できること」です。「給料は減ってもいいから働き方は自由にさせてほしい」「自分はめちゃくちゃ働くから給料もいっぱいほしい」、どちらの考え方もありだと思う。「残業したくない」と同じように「私はこれだけ給料がほしい」というのも並列で語られてほしい。だから、社内で話が出たときは「やったー!」とすら思いました。主張してくれれば、それを叶えることも協力することもできますから、みんなどんどんやればいい。

朱野 でも「給料を上げてくれ」と言うのは、心理的ハードルが高いですよね、特に日本人は。

青野 そうなんですよ。実際に日本人で給与交渉してくる人って、年間数名とか、その程度で。アメリカの子会社ではもっとガンガン来ます。

朱野 日本人だらけの環境だとどうして言いづらいのでしょう。

青野 幼少期からの教育に原因があると思います。決められた道をきちんと走れる子が「いい子」で、そこに異論を唱える子は異質として扱われる。だから自己主張する機会が全然ない。

朱野 とはいえ、日本でも戦後からバブルぐらいまでは労働組合が強くて、労使交渉や賃金交渉も盛んに行われていましたよね。時には血みどろの戦いまでして。なのに今、給料を上げてほしいと「言えない気持ち」があるのはなぜなのかと。

青野 「上がらないのが当たり前」「我慢するのが大事」という感覚に慣らされすぎたのかもしれないですね。

朱野 私は雇用不安に苛まれた「氷河期世代」ですが、耐えることに慣れすぎたというか、お金があったとしても使えない感覚が体に染みついています。幸せを求めてはいけない心理というか、「給料を上げてくれ」なんて言ったら、お前なんかがと嗤われそうで。

青野 そういうマインドが「失われた30年」の中で蔓延してしまった。

新潮社 波
2024年1月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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