「人の話は90%が自慢と愚痴」は誰の名言? “聞く力”の阿川佐和子が熟成させた『話す力』

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

話す力 心をつかむ44のヒント

『話す力 心をつかむ44のヒント』

著者
阿川 佐和子 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784166614356
発売日
2023/12/15
価格
990円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

SNS時代の会話の極意とは?

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

 本来なら10年前に出ていた本かもしれない。阿川佐和子『話す力 心をつかむ44のヒント』である。ベストセラーとなった『聞く力』の出版は2012年1月。「聞く」が売れたら、当然次は「話す」をテーマに書くものと思われた。

 しかし、著者はそうしなかった。「聞く」と「話す」は表裏一体であり、連続すれば似た内容になった可能性がある。10年にわたる知見やエピソードの蓄積と熟成を経て、ようやく本書を登場させた。

 思えば、旧ツイッターのXなどSNSのインフラ化で、現在ほど多くの人が積極的に発言している時代はない。同時に自分が発した言葉で窮地に陥る事態も頻発している。本書が示すヒントは今こそ有効だ。

 たとえば、「問題は何を話したいか」だと著者は言う。話したいこと、そして話したい情熱の有無が出発点だ。また「相手の話に共感し反応する」、「相手との距離感をつかむ」、その上で言葉を「使い分ける」ことも、SNS時代の話す力として必須だ。

 さらに本書では、著者が出会った多彩な人たちの言葉も紹介されていく。中でも「人の話は九十パーセントが自慢と愚痴である」という東海林さだおの名言が光る。確かに自慢も愚痴も話す側は気持ちいいかもしれないが、聞く側はつらい。これを意識するだけでも、自分の話す内容や話し方が変わってきそうだ。

 昔から「文は人なり」といわれるが、話すこともまた人格の表れだと知る。

新潮社 週刊新潮
2024年1月25日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク