70年代半ばの歌舞伎町で生まれた「タモリ」の特異な司会とは? 「笑っていいとも!」を深掘り

レビュー

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「笑っていいとも!」とその時代

『「笑っていいとも!」とその時代』

著者
太田省一 [著]
出版社
集英社
ISBN
9784087213065
発売日
2024/03/15
価格
1,034円(税込)

タモリ本人が「楽しくなければ」

[レビュアー] 碓井広義(メディア文化評論家)

「森田一義アワー 笑っていいとも!」(フジテレビ系)の開始は1982年秋。2014年3月の終了まで約32年間、全8054回が放送された。

 一本の番組を深掘りすることで時代と社会を読み解いていく。太田省一『「笑っていいとも!」とその時代』は、社会学者の著者による意欲的な試みだ。この番組は戦後日本、特に「戦後民主主義が持つ可能性」を最も具現していたのではないか。本書はそんな仮説から出発している。

 著者はいくつかの注目ポイントを挙げる。まず、「仕切らない司会者」という特異な存在だったタモリだ。番組を切り回すことはせず、その場の雰囲気を自身も楽しもうとする。仕切ることを避けながら、「楽しくなければ」と連呼する80年代のテレビや時代との距離を保っていたというのだ。

 次が、「テレフォンショッキング」のコーナーが象徴する「広場性」だ。ジャンルを超えたレギュラー出演者の組み合わせがテレビ的「つながり」を増幅し、様々な素人参加企画も番組の間口を広げていった。

 さらに著者は、番組の拠点であるスタジオアルタがあった新宿という「場」に目を向ける。60年代にカウンターカルチャーの聖地だった新宿。70年代半ば、歌舞伎町の飲み屋で生まれたのが「タモリ」だ。演者と観客が渾然一体となった空間で、独自の密室芸を進化させる。そして80年代、不穏な黒メガネの男は、新宿に通勤する「仕切らない司会者」となった。

新潮社 週刊新潮
2024年5月16日夏端月増大号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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