『競馬の経済学』
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意外に知らない競馬のおカネの流れ 企業戦略の専門家が監修して解説
[レビュアー] 田中秀臣(上武大学教授)
公営ギャンブル市場が活況だ。主導しているのは、競艇、競輪、オートレース、そして本書のテーマである競馬だ。競馬市場は、JRA(日本中央競馬会)の年間売り上げが3兆円を超え、さらに地方競馬は2兆円に近く、いずれも年々規模が拡大している。コロナ禍でさまざまなスポーツや娯楽が制限されていても、競馬は例外的に売り上げを伸ばし続けた。その理由も含めて、本書は競馬のおカネにまつわる話題をわかりやすく解説している。
競馬は当たり前だが、ファンが馬券を購入することで成立する。高度成長の余韻があった1970年代やバブル後の90年代前半に競馬ブームがあり、多くの国民が競走馬の世界に魅せられた。だが日本経済が停滞していくと競馬市場も勢いを失う。
今日のような復活を支えたのは、ネットでの馬券購入がしやすくなったことが最大の理由だ。いまや売り上げの85%をネット販売が占める。また的中すれば高額な配当をうけとることができるさまざまな券種を導入し、ファン目線のサービス拡充に地道に努力したことも大きい。
競馬を支えるのはファンだけではない。JRAを通じて、賞金をうけとる騎手、馬主、調教師、そして生産牧場を担う人たち、また獣医師や装蹄師などJRAの専門職やJRAの子会社の役割まで、その報酬や所得の金額など、本書は豊富なイラストとともに、競馬市場の内実を詳しく解説することに成功している。また人手不足などの課題も指摘する。
本書の監修は、ゲーム理論の専門家だ。ゲームといっても娯楽の研究が主ではない。むしろ個人や少数の企業の戦略的行動を分析することが多い。しかも競馬は、大多数が参加する競争市場に近いので、ゲーム理論はふさわしくない、と監修自身も認めている。では、なぜ監修したのか? その答えは簡単だ、競馬が好きだからだ。その意味でも競馬愛あふれる本づくりになっている。