『死んだ動物の体の中で起こっていたこと』
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生命に責任感を持って向き合う――〈死ぬに至った動物たち〉へのエッセイ
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
著者は獣医師だが、臨床医ではない。ペットに予防注射をしたり、怪我をした動物を手術したりするような、いわゆる「動物のお医者さん」のイメージとは異なる仕事をしている、獣医病理医である。
あるときは、大きすぎて死んだ場所から動かせないアフリカゾウをサファリパークの中で解剖し、またあるときは、突然死したハムスターの極小の内臓をひとつひとつ取り出しては顕微鏡で検査する。著者の仕事は、なぜその動物が死に至ったのかを明らかにすることなのだ。
動物園にいる動物なら、死因はわかっているだろうと思われるかもしれない。しかし解剖してみると意外な結論になることもあるのだという。たとえば、あるカンガルーの死。カンガルーには、飼育下のみで見られる「カンガルー病」という病気がある。死んだカンガルーもこの病気の治療中だったので、死因もそれだろうと思われた。しかし解剖してみると、この病気の症状は限定的な範囲にとどまっていた。顕微鏡を使った検査によって、急性腎障害を起こしていたことがわかる。骨格筋や心筋の壊死も見つかった。ほんとうの死因は、治療のため捕獲される時に激しく暴れたことで起きた「捕獲性筋疾患」だとわかった。
このようなことがわかると、おなじ原因で次の個体が死ぬことを防げる。著者は、動物病院の臨床獣医師を、予後という「未来」を判断する仕事とし、獣医病理医は「過去」に何が起きていたかを究明する仕事だという。両方が存在して初めて、動物の生命に責任感をもって向き合うことができる。
学習塾で飼われていたニワトリが急死した原因を知るため、子どもたちも参加して解剖が行われたようすを見ると(しかもこの解剖は子どもたちが依頼した)、死を知ることが生を知ることにつながるという実感がわく。この本は、家族で読むのもおすすめです。