飼育中のニワトリが急死…すると子ども達は「解剖」を依頼!「獣医病理医」のエッセイに知る生命との向き合い方

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死んだ動物の体の中で起こっていたこと

『死んだ動物の体の中で起こっていたこと』

著者
中村 進一 [著]
出版社
ブックマン社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784893089656
発売日
2023/12/12
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

生命に責任感を持って向き合う――〈死ぬに至った動物たち〉へのエッセイ

[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)


死を知ることが生を知ることにつながる(※画像はイメージ)

 著者は獣医師だが、臨床医ではない。ペットに予防注射をしたり、怪我をした動物を手術したりするような、いわゆる「動物のお医者さん」のイメージとは異なる仕事をしている、獣医病理医である。

 あるときは、大きすぎて死んだ場所から動かせないアフリカゾウをサファリパークの中で解剖し、またあるときは、突然死したハムスターの極小の内臓をひとつひとつ取り出しては顕微鏡で検査する。著者の仕事は、なぜその動物が死に至ったのかを明らかにすることなのだ。

 動物園にいる動物なら、死因はわかっているだろうと思われるかもしれない。しかし解剖してみると意外な結論になることもあるのだという。たとえば、あるカンガルーの死。カンガルーには、飼育下のみで見られる「カンガルー病」という病気がある。死んだカンガルーもこの病気の治療中だったので、死因もそれだろうと思われた。しかし解剖してみると、この病気の症状は限定的な範囲にとどまっていた。顕微鏡を使った検査によって、急性腎障害を起こしていたことがわかる。骨格筋や心筋の壊死も見つかった。ほんとうの死因は、治療のため捕獲される時に激しく暴れたことで起きた「捕獲性筋疾患」だとわかった。

 このようなことがわかると、おなじ原因で次の個体が死ぬことを防げる。著者は、動物病院の臨床獣医師を、予後という「未来」を判断する仕事とし、獣医病理医は「過去」に何が起きていたかを究明する仕事だという。両方が存在して初めて、動物の生命に責任感をもって向き合うことができる。

 学習塾で飼われていたニワトリが急死した原因を知るため、子どもたちも参加して解剖が行われたようすを見ると(しかもこの解剖は子どもたちが依頼した)、死を知ることが生を知ることにつながるという実感がわく。この本は、家族で読むのもおすすめです。

新潮社 週刊新潮
2024年2月8日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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