「教育虐待」がもたらす深刻な弊害…中学受験で子どもを毎日叱っていた親が口にした“後悔”とは

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「教育虐待」がもたらす深刻な弊害…中学受験で子どもを毎日叱っていた親が口にした“後悔”とは

[文] 辰巳出版


子どもの幸せを願う親がすべきことは…(※画像はイメージ)

近年問題視されている「教育虐待」。子どもにとって、どんな弊害があるのだろうか。

教育評論家の親野智可等さんは、近著『反抗期まるごと解決BOOK』(辰巳出版)で中学受験をする子どもへ無理をさせる親の危険性にも言及している。反抗期の入り口に差し掛かる時期と中学受験が重なるケースもふまえ、反抗期とはどんなものか、また教育虐待の弊害や親の心構えなどを伺った。

聞き手・構成/さくま健太

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今の親子関係はかつての“上下関係”から大きく変化

──親野さんは本書で、反抗期は生理現象と捉えることができ、誰もが避けては通れない道であると説明なさっていますね。

おっしゃる通り、反抗期というのはまさに生理現象の側面もあります。ですから、親はいたずらに子どもの態度の変化に戸惑ったり、自分の育て方が悪かったと悩んだりする必要はないんです。ただ、時期に関しては個人差があり、一般的に精神年齢の発達が速い女子の方が早く始まるといわれています。早いお子さんだと小学4年くらいからスタートします。男子は、女子より2年くらい遅れると言われています。

──親自身も反抗期があったはずなのに、我が子のそれに直面して戸惑ってしまうのはなぜでしょう?

自分自身が反抗するのと、親という立場で反抗期の子どもに対峙するのとでは見える景色が異なるからでしょうね。もちろん、冷静に考えれば自分も親に対して同じような態度を取っていたことがわかると思いますが、そういうことに思い至る前に焦ってパニックになったりする方も多いようです。

──反抗期の子どもへの対処法は、今と昔とで大きく変わりましたね。本書では反抗期の子どもの言動を叱って抑えつけるのではなく、まず共感的に理解した上でサポートすることが大事だと書かれていましたが、私のような昭和育ちには隔世の感がありました。

確かに昭和の頃と今とでは子育てのやり方が全然違います。この30年間で発達心理学や教育心理学、脳科学などがすごく発達し、子育ての常識がどんどん塗り替えられました。昭和の時代は親が一方的に叱るのが当たり前でしたけど、それは子どもの成長に繋がらないことが判明し、テレビや新聞、ネットといったメディアでもその情報が拡散されました。ですから、社会全体で親の働きかけが変わってきた印象があります。昔の親子というのは上下関係でしたが、今は民主的な関係へと変わりつつありますね。

──とはいえ、子育ては厳しくしなければいけない、という考えも根強く残っていると思います。

親から厳しく育てられ、大人になって一定の成功を収めている人は特にその考えにとらわれる傾向がありますね。しかし、最新の研究では、民主的な親子関係の中で自己肯定感を育んできた人の方が、勉強や仕事が良くできることが分かっています。それを象徴するのが、2023年夏の全国高校野球選手権での慶應義塾高等学校の優勝ではないでしょうか。丸刈り強制なし、短い練習時間、野球を楽しむことが優先というスタンスのチームが優勝したことで、厳しさだけが成果を生むわけではないことがしっかり証明されたと思います。

中学受験にこだわった夫は子どもを毎日叱り…夫妻が語る“後悔”とは

──その一方で、この流れとは正反対ともいえる「教育虐待」が近年問題になっています。親野さんはそのような関係にある親子と接したことはありますか?

私が知っている例では、中学受験を控えた親子が顕著ですね。中学受験が過熱し出したのは「勝ち組・負け組」という言葉が流行ったあたりから。そこから我が子だけは絶対に負け組にさせまいと躍起になる親がどんどん増え、今では我も我もと一種のブームになっていますよね。

──親野さんは現在の中学受験ブームに関してどのようにお考えですか?

独自の教育方針を持つ私立の学校がたくさんあることはとてもよいことですし、子どもが自分はこういう教育を受けたいからこの学校に行きたいとか、親御さんがわが子にこういう教育を受けさせたいからこの学校を子どもに推薦したいというように主体的に進路を選べることも素晴らしいことです。でも、今の中学受験はブームになってしまっていて、みんなが受けるから受けるという感じの親子が多いのが実状です。その結果、校風よりも偏差値が優先されたり、中学受験に向かない子が無理な受験で消耗したりしています。まだ精神的に未成熟で自己管理力が育っていない子は、口では「受験したい」と言いつついざとなると勉強に集中できません。それで親御さんから叱られ続けて、親子関係が悪化したり自己肯定感が下がったりなどの深刻な弊害が出てきてしまいます。

──実際にそのような事例を見聞きしたことはありますか?

Aさんという女性の体験談が特に印象的でした。彼女の息子は小学4年から私立のB学園を目指して受験勉強を始めましたが、塾に通わせたり家庭教師をつけたりしたにも関わらず受験まで半年を切っても志望校の合格圏内には入らなかったそうです。Aさんは志望校を変えることも考えましたが、夫が頑として譲らなかったそうです。というのも、夫にはB学園に入りたかったのに入れなかったという苦い過去があり、息子だけは何としても入れたいという強い思いがあったのだとか。

──息子さんの方は、渋々中学受験に臨んでいたのでしょうか?

おそらくそうでしょう。Aさん夫妻は、危機感も意欲もまったく見せない息子を毎日のように叱りつけて勉強させていたそうで、とうとう夫がその態度に怒って殴ってしまったそうです。だからといって息子のやる気スイッチが入ることはなく、それどころか父親への恐怖心から自室に閉じこもるようになったそうです。当然勉強にも身が入らず、模擬試験の度に順位が落ちていきました。その結果、滑り止めに受けた私立中学もすべて落ち、地元の公立中学に入学したそうです。

──その後、Aさんの息子さんはどうなったのですか?

父親との関係が改善することがないまま激しい反抗期を迎えたそうで、とても手を焼いたそうです。30代になった現在は、アルバイトで生計を立てながら一人住まいをしているそうですが、親子関係は冷え切ったままで、ほとんど実家には寄りつかないのだとか。Aさん夫妻は、小学生の頃に戻って親子関係を作り直したいという後悔に苛まれているそうです。

聞き手・構成/さくま健太

辰巳出版
2024年2月13日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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