【クマ駆除】集めた糞は3000個以上!クマ好きの研究者でさえ「駆除は必要」と主張するワケ

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ある日、森の中で クマさんのウンコに出会ったら

『ある日、森の中で クマさんのウンコに出会ったら』

著者
小池伸介 [著]
出版社
辰巳出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784777829828
発売日
2023/07/10
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【クマ駆除】集めた糞は3000個以上!クマ好きの研究者でさえ「駆除は必要」と主張するワケ

[文] 辰巳出版


クマの糞を集め続けて25年…(イラスト:帆)

生き物の糞には、多くの情報が詰まっている。古生物、現存の生物にかかわらず、研究者たちは糞を採取し、その生態を解き明かす手掛かりにしてきた。

そうした研究者の一人が、東京農工大学大学院教授(生態学・保全生物学)の小池伸介さんだ。小池さんは、ツキノワグマの謎に包まれてきた生態を明らかにすべく25年以上研究を続ける“クマ博士”だ。著作『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』(辰巳出版)では、研究の一環としてクマの糞を3000個以上集めてきたことを明かしている。

おそらく世界中の誰よりも真剣にクマの糞に向き合えるほど、クマを愛してやまない小池さんだが、人が住む場所に出たクマは「駆除するしかない」という。その理由を伺った。
(※前後編の後編)

***

山に追い払う、檻に入れる、麻酔銃を撃つにもリスクが

――小池先生はクマに対しては人一倍愛着を持っていらっしゃいますが、賛否両論のクマの駆除についてはどうお考えでしょうか。

人が住んでいるところにクマが出てしまったら、一刻も早く駆除するしかありません。取れる対策は他にないのです。

画像2:『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』(小池伸介・著、辰巳出版)

よく山に追い払えばいいという意見を聞きますが、追い払った先にも人は住んでいます。檻を置いて人がいないところに放獣すればいいという人もいますが、檻を置くだけでそう簡単に入ってくれるはずもありません。

麻酔銃はどうか? 薬が効くまで早くても5~10分かかりますし、興奮したクマにはなかなか麻酔が効きません。しかも麻酔を打たれて興奮したままどこかへ走って行ってしまい、見失ったらどうなるでしょうか? 行った先にも人はいるかもしれないのです。

だから、地域住民の安全、恐怖心をなくして安心して日常生活に戻ってもらうには、一刻も早く駆除するしかないのです。

しかし、駆除対応のスピードは地域によってばらつきがあります。私が副代表を務めている日本クマネットワークという団体で、過去10年のクマの市街地出没の事例を洗い直したところ、慣れた地域とそうでない地域で事案終結までの時間に差がありました。

過去の経験、平時からの備え、そして大事なのは警察との連携です。市街地に出たクマへの発砲は、誤射などの事故を防ぐために鳥獣法で禁じられています。例外として、警職法(警察官職務執行法)第4条によって警察の許可があれば発砲できることになっています。ただ、交番の巡査の中には警職法を知らない人も多いのです。だから、県警や県庁の鳥獣担当レベルで何かあった時の対応を決めておくかどうかが大事になってきます。出没してから話し合っていてはどうしようもありません。

例えば秋田では県全体で対応ができています。県庁にツキノワグマ対策担当の職員がおり、春の時点で関係機関の連絡会が開かれ、警察も勉強会をやっています。だから素早い駆除ができているのだと思います。

しかし、多くの市町村にも県庁にも、野生動物管理の専門知識を持った人がいないのが現実です。

「かわいそう」ではクマと共存できない

――自治体では野生動物対策を担う専門家の育成が進んでいますか?

私が勤めている東京農工大を中心に国内6大学と連携して大学生向けに野生動物管理に関する教育プログラムの試行をはじめました。ここ数年のうちに社会人向けのリカレント教育もはじめる予定です。そこで学んだ人たちが行政に戻ることで、今までとは違った専門的な対応ができるようになるのではないかと期待しています。

そして、今後は駆除も猟友会ではなく、自治体と契約を結んだ害獣駆除を本業にする専門従事者が担っていくべきだと思います。

そもそも猟友会というのは害獣を駆除するための団体ではないのです。趣味で狩猟を楽しむ人たちのための団体であって、そこに出てきたクマの対応を任せること自体がおかしな話なのです。

秋田県はクマの駆除に報奨金を出すことになりましたが、多くの地域では手弁当です。しかも、クマを撃つのは専門的な技術が求められます。現状でも猟友会は高齢化が問題になっていることを考えると、このままでは駆除対応ができない地域が増えてくるでしょう。

――根本的な対策としては、どんなことが必要でしょうか?

これからはクマが出てくるたび駆除するという場当たり的な対応だけではなく、クマが人間の前に出てこない環境づくりを目指すべきです。それは人間と野生動物の境界線を明瞭にして、誘引物を除去するというゾーニングの基本を徹底することです。

そのためにはまず、人間が住む地域とクマの生息域が物理的に近くなりすぎているので、その境界線を山側に押し戻す必要があります。

短期的には、場所を決めて集中的にクマを捕獲し、クマの生息域を山側に下げていきます。そして同時進行で、クマが定着しづらい環境を中長期的に整備していきます。これも、高齢化した集落では対応が難しいので、行政が予算を付けてボランティア頼みではない事業として対応することが望ましいです。

現状では猟友会に捕獲を担ってもらっていますが、持続性を考えると、今後は職業としてクマを捕獲する専門従事者を育成していく必要があるでしょう。

神奈川県は、高度なテクニックを持ったハンターたちを間接的に雇用して、標高の高い地域でのシカの駆除を任せ、シカの頭数管理をしています。同じように人里周辺のクマ対応のプロフェッショナルが必要になってくるかもしれません。

「クマがかわいそう」「殺したくない」という気持ちは私も同じですが、限られた土地でクマと人間とが共存し、犠牲を増やさないためには、両者の境界線を明瞭にしておくことが重要なのです。

辰巳出版
2023年12月 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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