【クマ被害】実を付けた柿の木を放置しないで…「自分は大丈夫」は危ないと専門家が警鐘

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ある日、森の中で クマさんのウンコに出会ったら

『ある日、森の中で クマさんのウンコに出会ったら』

著者
小池伸介 [著]
出版社
辰巳出版
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784777829828
発売日
2023/07/10
価格
1,650円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【クマ被害】実を付けた柿の木を放置しないで…「自分は大丈夫」が危ないと専門家が警鐘

[文] 辰巳出版


最悪のクマ被害にどう備えればいいのか

環境省は、今年(2023年)4月から11月のクマによる人身被害が、全国で212人に達したという速報値を発表した。うち死者は6人で、いずれも過去最悪の被害となっている。

全国各地でクマの被害が相次ぐ中、ツキノワグマの生態を25年以上にわたって研究する東京農工大学大学院教授の小池伸介さんは、「自分は大丈夫」だと思って対策を怠るなどの当事者意識の欠如が危険を招くと警鐘を鳴らす。

著書『ある日、森の中でクマさんのウンコに出会ったら』(辰巳出版)で、研究のためにクマの糞を3000個以上集め、森でクマの捕獲に失敗して死にかけた経験を明かす小池さんに、なぜ今クマの大量出没が起きているのか、どんな対策を取るべきなのか聞いた。
(※前後編の前編)

***

絶滅させないようにクマを保護したら……

――今秋、なぜクマの大量出没が起きているのでしょうか?

80年代までの日本ではクマの捕獲がとても多く、狩猟も行われていました。その後、山林開発の影響もあって、クマの生息数は減り、絶滅が危惧される地域も出てきました。

そのため、90年代に大きな転換が起こります。全国の猟友会の上部組織である大日本猟友会が自主的にクマの狩猟を自粛し、環境庁(現・環境省)が絶滅のおそれがあるツキノワグマの地域個体群に紀伊半島、東中国山地、西中国山地、四国山地、九州の5つを選定。99年には鳥獣保護法が改正され、各都道府県がクマには捕獲上限を設けて、獲りすぎないように管理し、保護をしていこうということになったのです。

そして、2004年に今年のような広範囲でドングリの凶作が起こり、クマの大量出没が始まりました。

もちろんドングリの豊作と凶作は自然のリズムであり、太古から繰り返されてきた現象です。90年代にも凶作年はあったのに、なぜ2004年からなのか? あくまで私の見立てですが、90年代以降にクマを獲りすぎないようにしてきた成果が出始め、分布が拡大して生息数も増えていったからだと思います。ある意味、人間による野生動物保護が成功したとも言えます。

――他にも要因はありますか?

人里の過疎化と高齢化も大きな要因となりました。クマが急速に分布を広げることが出来たのは、人間側の都市部への一極集中が加速し、地方を中心に過疎化が進行して限界集落が出現したことが影響します。人間が撤退すればそこは森に戻り、地域の高齢化が進めば今までは追い払えていたクマを追い払えなくなっていきます。

この流れはクマと人の距離も縮めました。昔、奥山に住むクマと人が住む集落や町には遠い距離がありましたが、その中間地域の里山から人間が徐々に撤退していったところに、クマを含めた野生動物が分布を拡大していきました。

つまり、90年代以降に野生動物保護と人里の過疎化・高齢化が同時進行したことが、クマを含む野生動物の分布拡大につながっていると思います。そしてクマの生息域が人間側に広がっていく中で、ドングリの凶作の影響が出やすくなっていったのが2000年代以降だったのだと考えられます。

「自分は大丈夫…」当事者意識の欠如からクマの被害に

――クマによる人身事故はどのようにして起こるのでしょうか?

例えば、2004年は富山でもドングリの不作年で、今年のように多くのクマが出てきました。実はその時も、今年もクマによる死亡事故が起こった現場から歩いていける場所で人がクマに襲われて亡くなっています。どちらも、クマが山林から階段状の地形を川沿いに藪をつたって下りてきて、人里に出るとカキの木があったという構図です。地元でクマ対応をしている専門家は、見知らぬ場所でパニックに陥ったクマが森に戻ろうとしたと推測しています。

ところがクマが慌てて戻った「森」というのが屋敷林だったのです。富山平野の郊外へ行けば、多くの農家が強風を防ぐために屋敷林で家屋を囲っています。そこで住人と遭遇してお互いパニックになって事故が起こったというわけです。

2004年以降、秋の出没は数年おきに起こっています。その都度、「クマを招き寄せる物は除去しましょう」とか、「クマが隠れる薮を刈りましょう」とか言われるわけですが、なかなか基本的な獣害対策を徹底できない地域が多いのが現状です。そして、その都度、怪我人や犠牲者が出て、クマを駆除してきたというのが、この20年間だと思います。

辰巳出版
2023年12月 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

辰巳出版

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