『パレスチナ戦争 入植者植民地主義と抵抗の百年史』ラシード・ハーリディー著

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パレスチナ戦争

『パレスチナ戦争』

著者
ラシード・ハーリディー [著]/鈴木 啓之 [訳]/山本 健介 [訳]/金城 美幸 [訳]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
歴史・地理/外国歴史
ISBN
9784588603716
発売日
2023/12/11
価格
3,960円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『パレスチナ戦争 入植者植民地主義と抵抗の百年史』ラシード・ハーリディー著

[レビュアー] 遠藤乾(国際政治学者・東京大教授)

自治区の不条理 冷徹に

 ガザでの殺戮(さつりく)は続き、暗澹(あんたん)たる状況のまま、はや4か月が経(た)つ。本書は、この紛争を100年超の時間軸のなかで根っこから考えなおす。

 著者ハーリディーは、パレスチナの名家の生まれ。その歴史研究の第一人者でもあり、彼自身含め一族が知識人として政治に関わってきた。これはパレスチナ紛争の通史であり、同時に歴史の参与観察者であるハーリディー家の物語。独特のタペストリーをなす。

 それによれば、1917年のバルフォア宣言と国際連盟委任統治、47年の国連パレスチナ分割決議、67年の六日戦争、82年のレバノン侵攻、93年のオスロ合意、そして2000年代初期のガザ封鎖とその後の断続的な戦争をつうじて、パレスチナに対して6回もの「宣戦布告」がなされた。正面の敵はイスラエルとユダヤ人入植者、背後には英仏米、加えて連盟や国連が控えていた。今回の惨状は、ハマースによる攻撃を直接のきっかけとしているとはいえ、第7回目の「宣戦布告」として位置づけられよう。

 この間、パレスチナはなきものとして扱われた。すでに戦間期にそのアイデンティティは存在し、その地で多数派を占めていたにもかかわらず、である。さらに、累次の宣言・白書・合意の類で、その不在、追放、占拠を認めさせられてきた。問題の根底には、パレスチナの現状が問題だと認められてこなかった問題がある。

 虐殺、飢餓、離散といった不条理が雄弁に綴(つづ)られるが、本書は「お涙頂戴」物語ではない。入植者と協力者により一世紀以上続けられた植民地戦争の歴史書であり、その冷徹な目は、昔の英国、今の米国がなした犯罪、パレスチナ人自身の内紛・無能にも向けられる。二国家共存しか解はないが、双方が暴力を制御し、イスラエル側が根本的な不平等に向き合わない限り、それは絵に描いた餅となる。

 訳文はこなれ、解説も的確。一読に値する。鈴木啓之、山本健介、金城美幸訳。(法政大学出版局 3960円)

読売新聞
2024年2月9日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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