『ボードゲームで社会が変わる』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
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『インディーゲーム中毒者の幸福な孤独』
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『ボードゲームで社会が変わる 遊戯(ゆげ)するケアへ』與那覇潤/小野卓也著/『インディーゲーム中毒者の幸福な孤独』ソーシキ博士著
[レビュアー] 宮内悠介(作家)
「対面」「デジタル」魅力探る
今回は「ゲーム」をテーマに、きれいに好対照をなしていた本を二冊取り上げてみたい。まず『ボードゲームで社会が変わる 遊(ゆ)戯(げ)するケアへ』が扱うのは、アナログの、人同士が顔を合わせて遊ぶボードゲームだ。與那覇潤・小野卓也両氏による対談や論考が収められているほか、有識者六名と実際にさまざまなゲームをプレイするパートもある。特色は、ボードゲームの紹介にとどまらず、なぜボードゲームに注目するのか、ボードゲームにはどのような意味があるのかと掘り下げていくところだろう。テーマはずばり、「ボードゲームを思想にする」こと。背景には、與那覇氏が鬱(うつ)状態のリハビリのためにデイケアに通い、そこでボードゲームに触れ、ボードゲームを趣味とするに至った実体験があったそうだ。共著者である小野氏は、ボードゲームのサイトを二十年近く運営し、住職でもあり、インド哲学の研究者でもあるというかた。ボードゲームの楽しさと、それが持つ未来への可能性を示唆する一冊だ。
もう一冊、『インディーゲーム中毒者の幸福な孤独』は、なんというか、すべてにおいて正反対であるような本だ。扱われるのは、まずデジタルのインディーゲーム。著者はそれを孤独に収集し、そこに広がる一種奇妙とも言える世界にひたる。扱われるのは、「目を凝らさなければ見つからないようなインターネットのはずれた場所にある“誰か”が作った小さなゲーム」たちだ。たとえば、脳卒中で倒れたという祖母をホスピスで見舞うだけのゲーム。あるいは、認知症患者となり、その混乱や不安を体験するゲーム。戦時下のウクライナで公開されたという経営シミュレーションまである。
デジタルゲームには、ときとして、現実以上に現実らしい臨場感が宿る。だからここに紹介されるのは、そのようなゲームにしかないリアリズム、ゲーム的リアリズムのいわば極北のような作品群なのだ。(河出新書、990円/集英社、1540円)