『権力を読み解く政治学』羅芝賢/前田健太郎著/『それでも政治を擁護する デモクラシーが重要な理由』マシュー・フリンダース著

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権力を読み解く政治学

『権力を読み解く政治学』

著者
羅 芝賢 [著]/前田 健太郎 [著]
出版社
有斐閣
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784641200081
発売日
2023/12/18
価格
2,640円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

それでも政治を擁護する

『それでも政治を擁護する』

著者
マシュー・フリンダース [著]/武田 宏子 [訳]
出版社
法政大学出版局
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784588603709
発売日
2023/10/25
価格
4,400円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

『権力を読み解く政治学』羅芝賢/前田健太郎著/『それでも政治を擁護する デモクラシーが重要な理由』マシュー・フリンダース著

[レビュアー] 苅部直(政治学者・東京大教授)

権力の監視 市民の役割

 デモクラシーは市民の参加によって支えられている。最近は選挙の投票率が低いから、みんな選挙に行きましょう。小学校・中学校・高校の教科書にはそう書いてあり、多くの人の常識になっている。

 しかし今や、選挙権を持たない外国籍の住人も日本には多い。十八歳以上の日本国籍者も、選挙のときを除けば、政治に関して意向を表明する機会がほとんどない。「あなたの一票が政治を変える」という呼びかけは、フィクションもしくは欺瞞(ぎまん)を多く含んでいる。

 悲観的に聞こえるかもしれないが、これが学問としての政治学の出発点である。羅芝賢と前田健太郎の共著による『権力を読み解く政治学』は、「政治権力を行使される側」としての一般市民の視点に徹底して立ちながら、近代国家の成立から現代政治の諸相に至るまで、多くの重要な問題を解き明かす入門書。たとえば低い投票率を、市民の関心の低下ではなく「政治家による動員の後退」と見ることで、選挙制度の特徴とそこで働く政治家の戦略が、くっきりと浮かびあがってくる。

 英国の政治学者、マシュー・フリンダースが著した『それでも政治を擁護する』(武田宏子訳)は、やはり政治学のすぐれた概説書であるが、前提となっている現実認識はさらに暗い。ポピュリズムの風潮が横行する欧州諸国の現状を背景として、「消費者」の短期的な利益しか念頭に置かない市場の論理や、環境問題やパンデミックの危機への対応を専門家に委ねてしまう心理が、人間の共同の営みとしての「政治」の基盤を掘り崩し、デモクラシーに対する失望を生む現状を、きびしく批判している。

 しかしそれでも、権力者に対し人々が異議を申し立てる社会運動の歴史を、羅と前田は強調し、フリンダースは、普通の人々が感情に流されない「大人」になり、「日常の政治」にとりくむことを提案する。機敏な政治権力と、そのあり方を問い直す市民の活動。その両者がそろうことで、デモクラシーはまっとうに生き続けるのである。(有斐閣、2640円/法政大学出版局、4400円)

読売新聞
2024年3月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

読売新聞

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