<書評>『戦争と財政の世界史 成長の世界システムが終わるとき』玉木俊明 著

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戦争と財政の世界史

『戦争と財政の世界史』

著者
玉木 俊明 [著]
出版社
東洋経済新報社
ジャンル
社会科学/経済・財政・統計
ISBN
9784492371350
発売日
2023/09/13
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『戦争と財政の世界史 成長の世界システムが終わるとき』玉木俊明 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆公債返済の前提が破綻

 「持続的経済成長」を前提とする社会システムは消滅の運命にある-本書はこう主張する警世の書である。

 近代世界システム論で有名なウォーラーステインの説では、「持続的経済成長」は17世紀のオランダから始まった。当時のオランダは、七つの州が公債を発行し、戦費を調達し、1人当たりの税負担がヨーロッパでも多い国だった。だが、公債を返済できたのは、「持続的経済成長」が実現されていたからである。

 これに対して、18世紀のイギリスは、フランスとの戦争に勝利するために、イングランド銀行に巨額の国債を発行させ、その返済を議会が保証するという形の資金調達を行った。しかし、ここでも、イギリスが長期的に何とか借金を返済できたのは、「持続的経済成長」が当然のことのように前提されていたからだ。19世紀初頭、イギリスの公債発行額の対GDP比は200%近かったが、経済成長のおかげで、19世紀末にはその比率は30%ほどになった。「大英帝国」が、海運業や金融業からの収入や植民地からの収奪に支えられていたことも公債依存度の低下に寄与した。

 日本も日露戦争の巨額の戦費を、欧米の外債市場での国債発行によって調達したが、その借金を最終的に1986年に完済できたのは、やはり経済成長のおかげである。

 ところが、最近、先進諸国は少子高齢化と社会保障費の増大によって公債依存度が高まるようになっている。「持続的経済成長」が期待できなくなった現在、その借金は返済できるのだろうか。著者は、それはもはや持続可能ではないレベルに達していると主張する。

 イノベーションによって経済成長はまだ実現可能であるという反論はある。だが、「持続的経済成長」を前提にした社会システムが消滅の危機に瀕(ひん)しているという著者の主張は、「脱成長論」とはまた別の文脈で、成長至上主義に警鐘を鳴らすものである。やや悲観的に過ぎるところもあるが、歴史的視野をもって財政問題を考えるときに参考になるに違いない。

(東洋経済新報社・2200円)

京都産業大教授・近代ヨーロッパ経済史。『ヨーロッパ覇権史』など。

◆もう1冊

『「経済成長」の起源』マーク・コヤマほか著、秋山勝訳(草思社) 

中日新聞 東京新聞
2023年12月10日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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