<書評>『技術革新と不平等の1000年史(上)(下)』ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソン 著

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技術革新と不平等の1000年史 上

『技術革新と不平等の1000年史 上』

著者
ダロン・アセモグル [著]/サイモン・ジョンソン [著]/鬼澤 忍 [訳]/塩原 通緒 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784152102942
発売日
2023/12/20
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

技術革新と不平等の1000年史 下

『技術革新と不平等の1000年史 下』

著者
ダロン・アセモグル [著]/サイモン・ジョンソン [著]/鬼澤 忍 [訳]/塩原 通緒 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784152102959
発売日
2023/12/20
価格
3,300円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

<書評>『技術革新と不平等の1000年史(上)(下)』ダロン・アセモグル、サイモン・ジョンソン 著

[レビュアー] 根井雅弘(京都大教授)

◆繁栄は社会改革あってこそ

 1990年代の後半以降、パソコンやデジタル機器が急速に普及し始め、人類の将来はバラ色であるかのように夢想された。スティーヴ・ジョブズはいみじくも言った。「昨日のことでくよくよするよりも、明日を作り出そうじゃないか」と。だが、本書の著者たちは、1000年にわたる人類の歩みを再検討し、新しいテクノロジーが自動的に繁栄につながるわけではなく、経済的・社会的・政治的な選択に左右されると主張している。

 イギリスで産業革命が始まってから100年間は、技術進歩の成果を享受したのはほんの一握りの人々で、大多数にとっては労働時間の延長、職場での自律性の低下、実質所得の停滞などを招いた。19世紀の後半になって様相が変化したが、それは普通の人々が団結し、経済的・政治的改革を推進するようになったからだ。労働組合の台頭や民主主義の拡大が、繁栄を広い範囲の人々に共有させるのにあずかった。

 同様に、第二次世界大戦後の数十年間も、公衆衛生と医療への投資のおかげで労働者階級の健康状態が改善し、繁栄が広い層に共有された。ただし、女性、マイノリティー、移民という例外があったことも忘れてはならない。

 ところが、いまや生産工程から労働者を排除することをもくろむデジタル・テクノロジーが普及し、技術革新が経済格差の拡大と労働者の地位の低下をもたらす方向へ大きく傾いている。テクノロジー大企業は、AIを用いて大量のデータを収集・活用しビジネスの拡大を図る一方で、政府もまた同じ手法で市民の監視を強化しようとしている。テクノロジーの社会的偏りを正すには対抗勢力の台頭が必須だが、労働組合の弱体化や民主主義の形骸化によってそれはたやすいことではない。

 著者たちは決して技術悲観論者ではない。だが、対抗勢力を育てる政府の政策転換や制度改革を伴わなければ、繁栄を広く社会に共有させるのは困難だという。技術の「進歩」が何を意味するかを1000年の歴史を探って考察した意欲作であり、一読を勧める。

(鬼澤忍、塩原通緒訳 早川書房・各3300円)

アセモグル 米国MITで研究。ジョンソン IMF元チーフエコノミスト。

◆もう1冊

『暴力と不平等の人類史』ウォルター・シャイデル著、鬼澤忍、塩原通緒訳(東洋経済新報社)

中日新聞 東京新聞
2024年1月14日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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