<書評>『大災害とラジオ 共感放送の可能性』大牟田智佐子 著
◆被災者元気づける「伴走者」
ラジオは終わったコンテンツと揶揄(やゆ)されることも多い。だが、いざ災害が起きると何よりも頼りにされる。
なぜなのか。著者はこの道34年の放送人。この本は著者の博士論文をもとにつづられたラジオへのエールである。
災害時、ラジオで紹介されるたくさんのメール。それを丁寧に分析した。
「まー怖かった」「怖かったです!」。被災者から寄せられた生々しいメール。これを聴いた人たちは、被災者の気持ちを受け止め、「みなさん気を強く持って頑張りましょう」と応じる。そこに熱く流れるのは共感だった。
いつものパーソナリティーは、淡々と明るく語り掛ける。昔のアニメソングや演歌、パワフルなロックが流れる。避難所でひとりで目を閉じ、音や言葉が深く心に入り込む。こうした時間に被災者は元気づけられるのだ。
ラジオはどん底から這(は)い上がるための「伴走者」である。それこそがラジオ自身が持つ存在意義かもしれない。今こそ読まれるべき大切な本だと思う。
(ナカニシヤ出版・3520円)
1990年毎日放送(大阪市)入社。2010年まで災害報道専門記者。
◆もう一冊
『災害の襲うとき』ビヴァリー・ラファエル著、石丸正訳(みすず書房)