『紫式部の実像』伊井春樹著
[レビュアー] 産経新聞社
時の権力者である藤原道長は、長男の最初の結婚という重大事を紫式部に相談する。「結婚させたいのだが、あなたは親王と親しい関係にあるので」。『紫式部日記』に記された場面だ。相手となる姫の親は才人として名高い具平親王。道長は紫式部を一介の女房ではなく、親王の後ろ盾のある女性として厚遇していた―。
どのようにして紫式部は『源氏物語』に盛り込んだ有職(ゆうそく)故実や宮中文化の詳細を知り得たか、皇族伝来の楽器と奏法に親しんだか。『権記』『小右記』など当時の文献を引用しながら、NHK大河ドラマ「光る君へ」のヒロインの実像に迫る。(朝日選書・1980円)