『真実と修復』
- 著者
- ジュディス・L・ハーマン [著]/阿部大樹 [訳]
- 出版社
- みすず書房
- ジャンル
- 自然科学/医学・歯学・薬学
- ISBN
- 9784622096900
- 発売日
- 2024/03/19
- 価格
- 3,740円(税込)
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<書評>『真実と修復 暴力被害者にとっての謝罪・補償・再発防止策』ジュディス・L・ハーマン 著
[レビュアー] 河原理子(ジャーナリスト)
◆「まわりのひと」変える使命感
「何をしたら被害者はゆるしてくれるのですか」
加害者の更生を支える人に問われて困ったことがある。そのころ私は犯罪被害にあった人の話を聞かせてもらっていたが、考えは人により時により違う。加害者に関心が向かない人もいる。生きることが大変になり、それどころではない場合があるのだ。
ゆるしを期待するのではなく、まずは被害者を中心に置いて「暴力を生き延びた人にとって正義とは何であるか」を聞いたのが、この本だ。
応じたのは、虐待や性暴力を生き延びた元被害者の、大学教員や専門職ら。どうあるべきだったのかを深く考えてきたのであろう人々の言葉と軌跡が、記されている。
フェミニズム運動から多くを吸収し、著者が『心的外傷と回復』を書いたのは約30年前。トラウマに触れる人の必読書となった。それから彼女自身が事故にあい病を得て、今回のインタビューも中断があったいう。80代で仕上げた「総決算の書」である。
被害者のなかに、自分の苦難が大きな社会的課題につながることを理解して、より良い世界のために使命を果たそうとする人がいる。著者はその傍らに居続けて、回復の最後の段階に「正義」があると考えるようになったという。
刑事司法とは別だ。求められるのは、真実を認め傷を修復すること。たとえば、加害者を放逐するより、責任と向き合うように、再発防止に資するようにすること。そしてコミュニティを変えることだ。「『まわりのひと』のやったこと/やらなかったことによって傷は深くされる」から。
聖職者による性暴力の例が示されているが、コミュニティに染みついた権威主義を変えなければ被害がくり返されることは、今の日本でなら理解されるだろう。
大学での予防教育や被害者支援、あるいは加害者治療、修復的司法。皆のための正義に向けたさまざまな試みが、失敗も含めて詳述されている。万能薬はない。けれどもここにはたくさんの可能性の芽がある。育ててつなぐことが、読み手に託されている。
(阿部大樹(だいじゅ)訳、みすず書房・3740円)
1942年米国生まれ。精神科医、ハーバード大名誉教授。
◆もう一冊
『トラウマ』宮地尚子著(岩波新書)