世界的ベストセラー作家のフランス版芥川賞受賞作!

レビュー

7
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天国でまた会おう 上

『天国でまた会おう 上』

著者
ピエール・ルメートル [著]/平岡 敦 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151814518
発売日
2015/10/16
価格
799円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

天国でまた会おう 下

『天国でまた会おう 下』

著者
ピエール・ルメートル [著]/平岡 敦 [訳]
出版社
早川書房
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784151814525
発売日
2015/10/16
価格
799円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

世界的ベストセラー作家のフランス版芥川賞受賞作!

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 昨年翻訳ミステリー界の話題を独占、フランスミステリーの株を一気に押し上げたベストセラー『その女アレックス』。その著者の新たな作品が、今秋立て続けに刊行された。

『その女アレックス』の前作で、主役カミーユ・ヴェルーヴェン警部の初登場作品となる『悲しみのイレーヌ』(文春文庫)と、ノンシリーズの本書『天国でまた会おう』である。

 こちらはフランスの芥川賞、ゴンクール賞を獲得した文芸作品との触れ込みだが、物語は一九一八年十一月、第一次世界大戦の過酷な戦場シーンから始まる。主人公アルベール・マイヤールは無口で控えめ、見た目も冴えない元銀行の経理係。いかにも戦争には不向きな青年だったが、それとは対照的に野心満々なのが、ハンサムながら非情な将校、アンリ・ドルネー=プラデル中尉だった。

 アルベールはプラデルが部隊の戦意を高揚させるため悪辣な方法を取ったことを見抜くが、それを察知したプラデルに生き埋めにされてしまう。瀕死のアルベールは仲間の兵士エドゥアール・ペリクールに助けられるが、エドゥアールはそのため砲弾の破片で顔を損傷してしまう。

 いっぽう武勲を立て出世しようとしていたプラデルは、アルベールが野戦病院でエドゥアールの看病をしているのを知ると、またしても彼を陥れようと謀る。エドゥアールは資産家の息子だったが、父とは不仲で実家に帰ることを拒んでいた。アルベールは彼の身分を変え、家族には戦死と報告。ふたりはプラデルから逃れるべく、別の病院からさらにパリへと移っていく……。

 なるほどジャンル的には、戦場の数奇な人間関係が戦後の因果応報劇へとリンクしていく、反戦=復員小説というべきか。『その女アレックス』のタッチも濃かったが、丹念な心理描写を凝らした人物造形が、本書ではまたいちだんと念入りになっている。アルベールたち主役三人はいうに及ばず、脇役勢も強烈だ。

 特にプラデルの悪業、戦没者の墓地再編計画の調査に現われる政府の役人ジョゼフ・メルランに注目。「見た目も異様なら性格も悪く、傲慢で狭量な態度で同僚たちからは嫌われ」まくりのこの男、実は人一倍職務に忠実な正義の男でもあった!

 むろん『その女アレックス』で発揮された展開の妙も健在。特に後半、プラデルの暴走とともに国家レベルの詐欺事件を企てるアルベールたちの動向からは目が離せない。本書はミステリー的趣向も凝らされた、日本でいえば直木賞系の快作なのだ。

新潮社 週刊新潮
2015年11月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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