SFネタ全部盛りに立川談志をトッピング 『ビビビ・ビ・バップ』

レビュー

6
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ビビビ・ビ・バップ

『ビビビ・ビ・バップ』

著者
奥泉 光 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062200622
発売日
2016/06/23
価格
2,808円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

SFネタ全部盛りに立川談志をトッピング 『ビビビ・ビ・バップ』

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

“おもちゃ箱をひっくり返したような”という形容がありますが、これはもう、おもちゃ工場をまるごと爆破したレベル。奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』は、単行本660ページの大容量に、いまどきのSFネタ(AI、ロボット、人格のデジタル化……)を全部盛りにしたうえで、チャーリー・パーカーから立川談志まで、好きなものを片っ端からトッピングする。まさに怒濤のごとき近未来エンターテインメント巨編。こんなに楽しげにやりたい放題やっている小説も珍しい。

 時は21世紀末。語り手はロボット猫のドルフィー(なので、「吾輩は猫である」という1行で始まる)。主人公は、ジャズピアニストにして音響設計士のフォギー(二代目)こと木藤桐、34歳。ちなみに初代は、タイムスリップSFの大傑作『鳥類学者のファンタジア』のヒロイン、池永霧子。本書のフォギーは、その曾孫にあたるという設定だ。

 二代目フォギーは、世界有数のロボット工学者にして超巨大企業の重役である山萩貴矢の依頼を受け、彼の架空墓(ヴアーチヤルトウーム)の音響設計に携わっている。山萩博士は大金持ちにして大天才なので、持てるリソースを惜しげもなく注ぎ込み、仮想空間に夢の新宿を構築。『新宿Pit Inn』や『新宿末廣亭』を現実と区別がつかないレベルで再現したばかりか、そこには、志ん生に談志、大山康晴、山下洋輔トリオ、エリック・ドルフィーなどなどの実在有名人が(往時の)本物そっくりの姿で現れる。

 しかも彼らは、これまた本物そっくりのロボットの体を与えられて、現実世界にも降臨。おかげで、復活した大山名人と人間の現役プロ棋士の対局という夢の企画も実現する。ところが、その歴史的な対局初日の深夜、大山ロボットが不可能状況下で何者かに“殺害”されるという大事件が発生。ロボットに託された謎の伝言と、現代文明を崩壊させかねない恐るべき電脳ウイルスをめぐって、世界を揺るがす冒険の幕が上がる。なぜか人類の未来を背負うことになったフォギーの運命やいかに。

『鳥類学者のファンタジア』では、夢のセッションを実現するためにタイムトラベルが使われたが、本書では、同じ目的のためにAIとロボットと仮想現実がフル活用される。その意味では、SFを道具にした願望充足小説なんですが、これだけやってくれれば文句はない(むしろやりすぎかも……)。本気の暴走に茫然と身をゆだね、思いきり振りまわされる快感。いやはや、堪能しました。

新潮社 週刊新潮
2016年7月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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