インフルエンザが流行する季節に入った。人類に厄災をもたらすイメージが定着したウイルスとは何なのか? 9月に講談社科学出版賞を受賞した神戸大大学院教授の中屋敷均さん(52)の著書『ウイルスは生きている』(講談社現代新書)は、ウイルスの基礎知識や人類の進化に貢献してきた新たな側面とともに、生命とは何なのかという根源的な問いを投げかける。「ウイルスは私たちのDNAの中にいて、良いことも悪いこともする。その面白さを知ってほしい」と中屋敷さん。
1918年に世界で大流行したスペイン風邪(インフルエンザパンデミック)の描写から本書は始まる。その80年後、72歳の米国人医師が酷寒のアラスカの地で当時の犠牲者の体から、「スペイン風邪」のウイルスを取り出すことに成功する。科学者の情熱がドキュメンタリーさながらの迫力で伝わってくる。
RNAや転移因子など専門用語も多いが、具体的なエピソードも満載。別の生物(寄主)に卵を産み付ける寄生バチのエピソードでは、寄主の免疫を抑制し、利他的行動を取らせるウイルスの存在を示唆する。例として挙げたのが、映画「エイリアン」だ。挿話が面白いために、理系の知識がなくても、8割は理解できた気になる。
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- ウイルスは生きている
- 価格:924円(税込)
『生命のからくり』に続く2冊目の一般書。科学出版賞の「受賞のことば」によると、「論文と学会の世界の住人だった私」が「本を書こう」と思い立ったのは平成24年。「論文と学会の世界では、時刻表のように有用な情報が豊富にあれば読んでもらえる。しかし、『本の世界』では、そこに列車の汽笛が聞こえ、線路沿いの花々が目に映る『旅』がなくては読んでもらえない」と例える。
生命科学の分野は過去20~30年で大きく広がり、理解するのに膨大な知識が必要になった。結晶化するウイルスは、単なる物質というのが科学の常識だが、一般人には細菌(生物)との差が分かりにくい。「生命の原理とは何かという、大きな謎がある。文系と理系のはざまを埋め、生命科学の魅力を伝える本をこれからも書きたい」と笑顔を見せた。
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