「デュエル王」遠藤航のルーティンと心の拠り所とは? 『DUEL 世界に勝つために「最適解」を探し続けろ』試し読み

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 カタールワールドカップで日本中を熱狂させたにサッカー日本代表。その「心臓」とも言われ、中心選手として攻守のみならずチームのメンタル面をサポートしてきたのが遠藤航だ。

 世界トップレベルの「激しい」リーグであるブンデスリーガで「1対1勝利数」において2年連続1位を記録。チームでは日本人ながらキャプテンを務める遠藤のルーティンと心の拠り所とは何か? 著書『DUEL 世界に勝つために「最適解」を探し続けろ』より一部抜粋して紹介する。

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心の拠り所を別につくる

「パパ、あそぼ! いまはダメ。そんなやり取りもだいぶ慣れた。
最初は駄々をこねるけど、たいてい10分もすれば忘れている。
僕抜きで、遊んでいるのだ。そこでようやくちょっと昼寝ができる。」

毎日のルーティン

 サッカー選手はけっこう時間があります。

 練習は基本的に平日の2~3時間で、週末は試合。遠征や代表活動があると家を空けることも増えますが、家族との時間は他の仕事をしている「父親」「旦那さん」よりは多いと思います。

 簡単に平日の一日を書いてみます。

 朝は七時ころに起床。子どもが起きて学校に間に合う時間です。

 朝食はだいたいシリアル。豆乳をかけて食べます。ただそれだけだと栄養のバランスが偏ると思ってナッツやオートミールを一緒に摂っています。

 そのあと、子どもたち4人を学校に送り、練習が午前にあるときはクラブハウスに向かいます。

 練習は、だいたいちょっと早めに行きトレーニングルームに入ってマッサージや軽いトレーニングをします。余談ですが、日本人選手はだいたいこういう準備をしっかりするのですが、海外の選手はこうした個人でのトレーニングやコンディション調整について、やる、やらないがはっきりしています。やる選手はやるけどやらない選手は本当にまったくやらない。

 シント=トロイデンにいたときの面白い話があります。

 僕がプレーしていた2018-19シーズンは(鎌田)大地、(冨安)建洋、関根貴大(せきねたかひろ)、小池裕太(こいけゆうた)、木下康介(きのしたこうすけ)と僕を含めて6人の日本人選手がいました。

 練習前のトレーニングルームは賑やかだったのですが、そのシーズンオフに大地はフランクフルトに戻り、冨安はセリエAのボローニャへ移籍。関根は浦和、小池は鹿島アントラーズと日本でのプレーを選び、木下はノルウェーのスターベクIFに渡りました。シュツットガルトからのオファーがあると聞いていたものの、ぎりぎりまで決まらなかった僕は、日本人がいなくなったとたんに静かになったトレーニングルームにぽつんといたことがあります。あれはビックリしました。

 話を戻して、一日について。

 練習が終わると、そのまま昼ご飯を食べます。クラブハウスでご飯が出るので、食べてから帰宅。だいたいパスタとサラダが中心です。

 家に帰れば、そのまま学校へ子どもを迎えに行く。

 子どもからすると「うちの親父はずっと家にいる」存在です。子どものいなし方も随分慣れたと思っています(笑)。

 そのあとは、自宅でトレーニングをする日、歯医者に行く日(マウスピースを作ってもらっている関係でかなりの頻度通っています)、子どもと遊ぶ日とさまざまですが、だいたい18時くらいにはみんなで食事をして、子どもたちを風呂に入れて、寝かせる……。

 お風呂を入れることと、寝かしつけは僕の仕事なのですが、そのまま一緒に寝てしまうことはたびたび。そうじゃないときでも就寝は23時ごろです。

・睡眠

 睡眠は大事にしています。

 もともと、アスリートだったらそこは気にしなきゃダメだろう、みたいな固定観念があって、夜更かしをし過ぎないとか、当たり前にすべき程度のことは考えて取り組んでいました。ただ、必ずこうしなきゃいけない、というほどこだわりを持っていたわけではありません。

 それが、どこのタイミングだったか──睡眠って本当に大事か? 大事ならなぜなんだ? 自分の睡眠はいい睡眠なのか? 例えばいま使っている枕や布団で大丈夫か?……と急に「知りたいスイッチ」が入り、「睡眠」についてネットや本で調べまくったことがありました。ちなみにこの「知りたいスイッチ」は「遠藤あるある」です。

『スタンフォード式 最高の睡眠』(西野精治 著/サンマーク)という本には、寝る時間、起きる時間を一定にすることが重要だと書かれていました。

 例えば、オフの日だけにいつもよりゆっくり起きるということは多くの人がやっていると思います。けれど「高い質の睡眠習慣を得たい」のであれば、「休みであっても同じ時間に起きるようにしたほうが心身にとっていい」と。僕自身、特に若いころは「寝溜めだ」といってお昼前に起きることがよくありました。

 けれど、そうした「睡眠の心得」みたいなものを学んでからは、遅くても1時間程度多く寝るくらいに留めています。不思議なことに、いまでは昼前まで寝ている、ということ自体できない体になっています。

「睡眠」に関しては、アスリートあるあるがあります。それは、試合が終わった日になかなか寝付けない。

 興奮しているのか、目が冴えて本当に眠れないのです。睡眠導入剤を使うアスリートもいるくらいです。

 ただ僕は、「寝られないなら仕方ない」と割り切るようにしています。寝なきゃと思って「寝られない」ストレスを感じるよりは、そういうものだ、仕方ないと受け入れる。いろんな情報を調べて学んだ結果、自分なりに見つけた「最適解」でした。

「睡眠」でもうひとつ意識しているのは「時差」調整です。

 日本とドイツには7~8時間の時差があります。ドイツから日本に行くとき、日本からドイツに戻るとき、当たり前ですが生活サイクルが変わります。普段だったら寝ているタイミングが日本では昼で練習になる、といったことがよくあるわけです。

 僕は毎回、時差がある場所に移動するとき、行く場所の生活サイクルに合わせるように努力しています。次に行く場所で23時に寝るために、何時間前から起きているべきか、寝るべきかを計算して、移動前は寝ないようにする。寝る時間は長い飛行機の中で完全に合わせていく、それが大事だと思っています。

・家族

 僕が結婚したのは19歳のときです。20歳のときには父親になっていて、プロ選手としてそのほとんどの時間を家族と過ごしています。

 一般的に言えばかなり早く家庭を持ったことになります。この経験は、自分としてすごくよかったなと思っています。ちなみに、10代のころから20代、ときには30代のように見えると言われていたので、結婚をしたときもあまり驚かれなかったですが……。結婚したときの報告が湘南ベルマーレのホームページにまだ残っていて、こんなふうに話していました。

 この度、入籍をしました。曺監督がいつも言うように、僕は皆さんから30歳くらいに見えるみたいなので、結婚の時期としては少し遅いくらいだと思います。
 というのは冗談ですが、新たに家族ができるので、より一層サッカーとしっかり向き合い、頑張っていきたいと思います。
 奥さんにとっては環境も変わり大変だと思いますが、食事の面などでサポートをしてもらいながら、僕自身もしっかり奥さんをサポートしていきたいと思います。これからもよろしくお願いします。

 ほとんど覚えていなかったですが、確かにこんな気持ちでした。

 サッカー選手の奥さん、というといろいろと苦労が多いと思います。移籍するたびに生活環境が変わって、長い遠征があったり、はたまたやたらと家にいたり……。でも、僕の場合、奥さんとの関係でストレスを感じることがほとんどありません。

 それはもしかすると奥さんがサッカーについてほとんど無関心だからなのかもしれません。サッカー部のマネージャーだったのに……でも、それくらい子育てが大変だということです。

 昨シーズン、残留ゴールを決めたとき、シュツットガルトは結構なお祭り騒ぎになっていました。家に帰ると玄関前に「LEG“ENDO”」の文字。

 隣に住んでいる子どもたちが、ゴールを決めた僕に「レジェンド(LEGEND)」と「遠藤」(ENDO)をかけた造語で祝福してくれていたのです。いろんな人から連絡も来ていて、これからの人生でもないくらい注目してもらったんだな、と思っていたのですが、家に帰ると、出たときと何も変わらない空間がありました。

 奥さんからは一言。

「おめでとー」

 携帯を触っていた気がします。

 まるで我が家だけ「シュツットガルトにない」かのようでした。

 個人的に一番面白かったのが、カタールワールドカップの組み合わせが決まったときです。アウェイで試合がある前の日だったので、遠征先のホテルで抽選会を見ていたのですが、強豪ドイツとスペインと同じグループに入ったときは興奮しました。強い相手とやれる! と思い、奥さんにLINEをしました。

 その組み合わせを写真に撮って送ったのですが、奥さんからは一言。

「トーナメント?」

 つい、「ワールドカップって知ってる?笑」と返信したくらいです。

 ちなみにそのあとのやり取りもなかなか面白いです。

「いま、どこにいるの?」と。

「いま、ビーレフェルト。今日、前泊って知ってる?笑」

「知らなかった!笑」

 なんと「夫」が仕事に出ていて泊まりがけであることすら知りませんでした。

 一事が万事、こんな感じで僕自身はまったくストレスがありません。

 実は僕には夢があります。

 紹介したように、お互いに若くして結婚をしたので「母親・父親」としては長い時間を過ごしていますが、「妻と夫」としてはほとんどその時間を楽しめていません。だから、子どもたちが大きくなって、一人前になったら、その時間を味わわせてあげたい。長男が成人するとき、僕も奥さんも40歳くらいなので、まだまだ時間はいっぱいあるはず。それが、将来の僕の夢だったりします。

 4人の子どもはとにかくかわいいです。「はじめに」に書いたように、怒ってしまって「子育ては難しいな」と思うこともありますが、寝顔を見たときは一番、癒されるし、もっと優しくしなきゃ、と反省します。

 僕の長所のひとつに「緊張しない」ことを書きました。どんな試合でも昂ることはありますが、あまり硬くなることはありません。それと似たイメージで、試合に勝っても、負けても引きずらない性格があります。悔しさはものすごく強いですが、切り替えて「次、全力を尽くすだけだ」と未来を見ることができます。

 なぜなんですか、と聞かれることがあって、なかなか自分でも答えが出ないのですが、ひとつ思っているのが「家族」がいることでした。

 負けても、ミスをしても最後に「パパ、お帰り」と言ってくれる場所がある。4人の子どもがいる家は、みなさんが想像している以上に賑やかです。そこに戻ってくると、別の場所に来たような、ほっとした感覚があります。

 もし、僕に家族がいなかったら、帰ってからひとりで考え込んだり、切り替えがうまくできずに引きずってしまうこともあったんだろうな、と考えることがあります。

 自分の中で家族はひとつの心の拠り所です。

 サッカーに興味があまりないように見えて、僕のプレーには大きな影響を与える存在として欠かせないものになっています。

続きは書籍でお楽しみください

JBpress
2023年2月17日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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