留守番をしていたイヌがなぜか行方不明に…1カ月後に発覚した「隣家の主婦」の“血の気が引く行動”とは

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ゾッとする迷子の理由…(※画像はイメージ)

 過去、3000件におよぶ“失踪案件”を手掛けてきた「ペット探偵」の藤原博史氏。1997年にペットを捜索する「ペットレスキュー」(神奈川県藤沢市)を設立して以来、イヌやネコをはじめ、フェレットやプレーリードッグ、ウサギ、モモンガからヘビ、インコまで、あらゆるペットを探し出してきた。依頼のうち7割は成功させてきたという藤原氏が、なかでも強く印象に残ったケースを明かした。

(前後編の後編)
※以下は「週刊新潮」2020年3月5日号をもとに再構成したものです

 ***

引っ越し翌日に逃げ出した兄妹ネコとの再会

 3000件におよぶ“失踪案件”を手掛けてきた「ペット探偵」の藤原博史氏。大団円あればミステリーあり、著作の『210日ぶりに帰ってきた奇跡のネコ』(新潮新書)では、二十余年にわたるその捜索活動を振り返っている。起伏に富んだ再会ドラマの後編をお届けする。

 行方不明になったペットの捜索を四半世紀近く続けてきた私には、忘れられない現場がいくつもあります。この記事の前編ではその一つ、引っ越した翌日にいなくなった2匹のネコ(ギャルソンとコロラの兄妹)の話をしました。2017年3月の失踪から半年余り、諦めきれない飼い主の佐藤さんに4度目の捜索を依頼された私は、現場の大分で考え得るすべての策を打ち、会社のある神奈川県藤沢市へと戻っていました。
 直線にしておよそ800キロの距離を幾度も往復した私に、運命の電話が掛かってきたのは、その数日後。
「探しているのはこの子ですか? 動画もありますよ」
 急いで映像を送ってもらうと、まさしく兄ネコのギャルソンで、依頼主の佐藤さんも「間違いない」と太鼓判を押します。情報提供者の方が自宅リビングから撮った映像は、わずか10秒ほど。それも3カ月前のものでしたが、まだ近くにいるかもしれない。私はそのまま大分へと飛びました。
「自宅でスズメにエサをやっている時、何度も狙いに来たネコがいて……」
 と、その情報提供者は言います。見張りながら撮影していたことが、貴重な手掛かりとなりました。ギャルソンはかなり痩せているものの、捜索7カ月目にして無事が初めて確認できた。すると立て続けにもう1本、電話が入ったのです。
「このネコ、昨日見ました」
 聞けば、イヌの散歩中に寄って来たネコがチラシの写真に似ており、機転を利かせて携帯電話で撮影してくれたとのこと。写真はギャルソンに間違いなく、直ちに現場へと向かいました。
 佐藤さんの新居から2キロ離れた住宅街には、前日に目撃されたのと同じ時間帯に到着。すると、なんと目の前にギャルソンが!
 暦はすでに11月。よく頑張って生き抜いてきたものだと感慨が湧いた私は、現場に建つマンションのゴミ置場の路地に捕獲器をセットし、素早く立ち去りました。あとは車に乗り込んで気配を消します。
「カシャン」
 捕獲器の扉が落ちる音が聞こえました。車のドアを開けて駆け寄ると、中では戸惑った様子のギャルソンが見上げています。
「ずいぶん探したよ、ギャルソン。さあ帰ろう」
 そんなセリフが口をついて出てしまうほど、とにかく長かった。行方不明から196日ぶりの発見でした。
 それからしばらくして、今度はコロラの情報も寄せられました。現場はギャルソンが見つかった住宅街の近く。さっそく捕獲器を仕掛けると、その日の真夜中にコロラが大人しく入っていました。毛並みは綺麗で痩せてもいません。佐藤さんに電話を入れます。
「捕獲器にコロラが入りました。元気ですよ」
「え? なに……?」
 まさか、といった反応で、実際に連れて帰ってもご夫婦は驚いて動けませんでした。ギャルソンに遅れること14日、実に210日ぶりの帰宅です。飼い主と長らく離れ、最初はよそよそしいコロラでしたが、先に見つかったギャルソンが妹を温かく迎えてくれました。
 地図上で見ると、佐藤さんの新居と2匹の発見場所を結んだ方角はいずれも「北東」で、ずっと延ばしていけば以前住んでいた葉山(神奈川県)に至ります。私は捜索を始めた直後、2匹とも「自分のうちはここではない」と感じて葉山の家の裏に広がる森へ帰ろうとしたのでは、と直感したのですが、実際にその気持ちが方角を示していたわけで、胸が熱くなりました。
 実はご夫婦は、それから間もなく2匹を連れて大分の家を引き払い、以前住んでいた葉山へと戻ってきました。ネコたちの住む環境を優先した選択で、慣れない住宅街から勝手知ったる森へと戻ってきた2匹は、佐藤さん宅と行き来しながら幸せに暮らしています。

こつぜんと姿を消した留守番中のイヌ


「ペット探偵」の藤原博史氏

 ところで、空前のペットブームにあって世間では2014年にネコの飼育数がイヌを初めて逆転し、いまもその傾向が続いています。それでもイヌは古来、常に私たちに寄り添ってきた大切なパートナー。そんなイヌの捜索でも、特異なケースがありました。
「そちらではイヌも探してもらえるのでしょうか。ヨークシャー・テリアがいつの間にかいなくなって……」
 もう20年以上前のある初夏の夜、北海道に住む伊東さんという女性から電話が入りました。買い物から戻ってくると、留守番をしていたはずのペットがいなくなっていたというのです。
 ヨークシャー・テリアと聞いて、私はまず「すぐに見つかるだろう」と考えました。小型で毛並みが美しく、愛らしい容姿はとても目立つ。道をうろついていたら目撃情報も簡単に出てくるはずだからです。
 その頃、私はちょうど札幌のテレビ局の密着取材を受けていて、番組クルーの同行を承諾してもらい、数日後に伊東さんのお宅を訪ねました。普段なら私一人ですが、この時は総勢7人ほどの大所帯でした。
 イヌが行方不明になる状況には「散歩中」「公園で遊ばせている間」「自宅の庭で雷や花火に驚いて」「動物病院やペットホテル、知人宅から脱走」などが挙げられます。また、犬種によって性質や体格差が大きく異なるため、行動パターンも変わってきます。大まかにいうと、小型犬は威圧感がないため保護されやすい一方、中型であまり人に懐かないマイペースなイヌは保護されにくい。大型犬はやはり目立つうえ、イヌが苦手な人や子どもにとって危険なイメージもあり、通報されて保護されることが多いといった具合です。
 伊東さん宅のオスのヨークシャー・テリア「トート」は黒とグレー、茶色というスタンダードな毛色の長毛種でした。いなくなった理由、状況ともまったく見当がつかないとのことでしたが、小型犬なので急に遠くへ走り去ることはない。おそらく、あちこちを徘徊しながら徐々に遠ざかっていったのではないか。イヌは基本的に動き回る動物で、1カ所に潜むことがほとんどありません。道路も怖れず渡るので車に轢かれてしまう可能性もあります。時間が経つほど離れていくため、さっそく捜索を始めました。
 まずは日常の散歩ルートから。意外かもしれませんが、お気に入りの公園や仲が良いイヌの家などに寄ることがあります。飼い主さんから離れて自由の身となり、初めのうちは日々のルート周辺を「謳歌」していることがあるわけです。
 道々で名を呼び、イヌの散歩中の人たちに聞き込みをします。よその子を知る人がいるというのも、イヌ独特の事情でしょう。そうした人たちには直に連絡を貰えるようチラシを渡し、さらに駅や商店街など、人が集まる場所にも出向きます。その間、テレビ局のクルーが密着。是が非でも「感動の再会」を撮ろうと意気込んでいて、ADさんなど「朝のラジオ体操の会場で聞き込みをして来い」と命じられ、早朝から駆け回っていました。当時はまだSNSなどネットによる情報拡散ができなかったため、人海戦術は何よりの武器だったのです。

藤原博史(ふじわらひろし) ペットレスキュー代表。1969年生まれ。迷子になったペットを探す動物専門の探偵。97年に「ペットレスキュー」を設立し、ドキュメンタリードラマ「猫探偵の事件簿」(NHK BS)のモデルにもなった。

新潮社 週刊新潮
2020年3月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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