<書評>『大災害とラジオ 共感放送の可能性』大牟田智佐子 著

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大災害とラジオ

『大災害とラジオ』

著者
大牟田智佐子 [著]
出版社
ナカニシヤ出版
ISBN
9784779517693
発売日
2024/01/31
価格
3,520円(税込)

<書評>『大災害とラジオ 共感放送の可能性』大牟田智佐子 著

◆被災者元気づける「伴走者」

 ラジオは終わったコンテンツと揶揄(やゆ)されることも多い。だが、いざ災害が起きると何よりも頼りにされる。

 なぜなのか。著者はこの道34年の放送人。この本は著者の博士論文をもとにつづられたラジオへのエールである。

 災害時、ラジオで紹介されるたくさんのメール。それを丁寧に分析した。

 「まー怖かった」「怖かったです!」。被災者から寄せられた生々しいメール。これを聴いた人たちは、被災者の気持ちを受け止め、「みなさん気を強く持って頑張りましょう」と応じる。そこに熱く流れるのは共感だった。

 いつものパーソナリティーは、淡々と明るく語り掛ける。昔のアニメソングや演歌、パワフルなロックが流れる。避難所でひとりで目を閉じ、音や言葉が深く心に入り込む。こうした時間に被災者は元気づけられるのだ。

 ラジオはどん底から這(は)い上がるための「伴走者」である。それこそがラジオ自身が持つ存在意義かもしれない。今こそ読まれるべき大切な本だと思う。

(ナカニシヤ出版・3520円)

1990年毎日放送(大阪市)入社。2010年まで災害報道専門記者。

◆もう一冊

『災害の襲うとき』ビヴァリー・ラファエル著、石丸正訳(みすず書房)

中日新聞 東京新聞
2024年3月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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