宗教・地政学から読むロシア

「第三のローマ」をめざすプーチン

宗教・地政学から読むロシア

著者
下斗米 伸夫 [著]
出版社
日本経済新聞出版社
ジャンル
社会科学/政治-含む国防軍事
ISBN
9784532176037
発売日
2016/09/26
価格
3,080円(税込)

内容紹介

■現代の国際関係の基礎となっているウェストファリア体制では、宗教的要素を棚上げにして、世界秩序を「主権国家」が織りなすパワー・ゲームとして構想した。イデオロギーの対立を軸にした冷戦もまた、ウェストファリア体制の継続であった。しかし、冷戦の終焉を契機に、イデオロギーに変わる新たな政治の基軸として宗教の役割が見直されることになった。とくにウクライナ自体の東西分裂という構造的問題が次第に明らかになるとともに、世界政治の焦点は、中東危機、IS(イスラム国)問題や難民問題の背景にある宗教に移ってきたといえる。
■このウクライナ危機の最大の要因は、実は宗教である。千年にわたる歴史的・宗教的経緯を抜きに、つまり文明論的・宗教的アプローチ抜きに、今のロシアのアイデンティティ、あるいはロシアとウクライナとの特殊な関係は理解できない。そして、それを理解するカギとなるのが「モスクワは第三のローマ」という世界観だ。
■「第三のローマ」という考え方は、もともと、17世紀半ば、正教とカトリックとの和解という当時の国際的な潮流に乗ってカトリック的要素を取り入れ儀式改革を進めようとした「ニーコン改革」に反発し、モスクワを聖なる都=「第三のローマ」と信じた「古儀式派」といわれる伝統重視の保守派が唱えたものである。
■「古儀式派」とこの改革をめぐる分裂は、これまでのロシア論では無視されてきたが、21世紀に入って、そしてウクライナ危機により注目されるようになった。なぜなら、この宗教改革をめぐる対立問題が、単に宗教上の争いにとどまらず、ロシアとウクライナ、つまりモスクワとキエフとの関係の問題、そしてウクライナ危機やロシアのアイデンティティというきわめて現代的な問題の源流となるものでもあり、さらに、2017年に100年目を迎えるロシア革命の解明にも、ソ連崩壊の理解にもつながる重要な要素だからである。
■プーチンは、ロシアを「正教大国」と表現し、欧米国家ですら放棄しかかっているキリスト教的な価値をロシアが体現するとして、正教とロシアのミッションについて明確に語るようになった。ロシア正教会とローマ・カトリックとの歴史的和解はその成功例の一つだ。この「第一のローマ」と「第三のローマ」との和解は、IS(イスラム国)やシリアをめぐって緊張する中東やウクライナでの現実的紛争を解決する梃子ともなっている。「第三のローマ」としてのソフト・パワーを行使することにもつながるものだ。
■プーチンのロシアはどこへ行くのか――。「ロシアは常に理論の予測を裏切る」というテーゼを提起してきた著者が、文明論的・宗教的アプローチで、政治と宗教とが「交響」する、ウクライナ危機、現代ロシア政治の深層を解き明かす。

データ取得日:2024/04/26  書籍情報:JPO出版情報登録センター
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