芥川の名作を医療系物語に改編
[レビュアー] 図書新聞
芥川龍之介の名作をベースにした短編七作を収録。「病院の中」「他生門」「耳」など、ニヤリとせずにはいられないタイトルから、内容は自ずと想像がつくはずだ。医師としての経歴を持つ著者だけに、すべてが医療系の物語に改変されている。しかしあちこちからにじみ出ているのはドス黒いユーモア。読者は笑いとともにページをめくりながら、いつしか笑いの対象が自分であるという袋小路に追い詰められる。「或利口の一生」には、何もしない医療の素晴らしさを説きながら、自身ががんになったら一生懸命治療を受け死んでいく男が登場する。著者自身がモデルであることは明らかで、この自虐度の高さは相当なものだ。巻末の関連書コーナーに芥川作品と『白い巨塔』などの医療系小説だけを並べた編集部のセンスにも拍手。(1・1刊、三三二頁・本体五五〇円・新潮文庫)