映画化連発! 荒木源の最新作『人質オペラ』はリアル・テロ群像劇 

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人質オペラ

『人質オペラ』

著者
荒木 源 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784062205474
発売日
2017/05/17
価格
1,705円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

映画化連発! 荒木源の最新作『人質オペラ』はリアル・テロ群像劇

■「嘘」と「本当」の曖昧な関係が私のテーマ

水口 でも、場面展開も多彩で、映像化に向いていますよね。本の装丁も、映画をイメージしました。カバーの絵をお願いしたのは、三谷幸喜監督の映画『ラヂオの時間』(1997年公開)のポスターなどで知られる村田篤司さん。『人質オペラ』を読んでいただいてお願いをしたら、「ぜひ」とおっしゃってもらえて。この絵は、登場人物それぞれの思惑が複雑に絡み合う群像劇の雰囲気がよく出ています。

荒木 そうですね。そもそも私は群像劇が好きなんです。突出した個性の人を深掘りするよりも、全体に興味があると言うか……。登場人物一人一人にはもちろん個性があるわけですが、そういう人たちが化学反応を起こして、全体的にどういう方向へ進んで行くのか、そんなシステムの働き方みたいなものに興味があるんです。

水口 この小説では、人質事件をめぐって女性官房長官が冷徹な選択をして全体の流れが決定づけられますが、ラストシーンではまた違った一面を彼女は見せます。

荒木 今回のキャラクターの中で、私は女性官房長官が特に好きです。確かに彼女は冷徹ですが、冷徹というのはパッションの裏づけがあると思うんです。彼女はすごく仕事熱心です。ただ、日本のためにしているのか、自分のためにしているのか、線引きは定かではない。
「嘘」と「本当」の曖昧な関係は、私の大きなテーマです。『人質オペラ』の場合は、確固たる「正義」なんてものはないということを書こうとしたのだと思います。

■『ちょんまげぷりん』と『人質オペラ』のタイトルが決まるまで

水口 最初に私が荒木さんにお声がけさせていただいときは、『ちょんまげぷりん』のような作品をイメージしていたのですが、今回は違ったテイストです。

荒木 『ちょんまげぷりん』は、あるシングルマザーの前に突然タイムスリップして現れた江戸時代の侍が、居候をして家事全般を引き受けるという話です。私が20年前に会社を辞め、小説を書きながら兼業主夫をしてきたその経験が反映されています。これまでの作品はそんなふうに、ファンタジーでも自分の体験をもとにしたものが多かった。確かに今回はそうではないですね。

水口 『ちょんまげぷりん』は、小説刊行時は『ふしぎの国の安兵衛』というタイトルでした。

荒木 錦戸亮さん主演で映画化されたとき、映画の制作会社がF1層にリサーチした結果、生まれたものらしいんです。

水口 いいタイトルですよね。

荒木 「安兵衛」というと、私は「堀部安兵衛」を思い浮かべるのですが、F1層には当然ピンとこない。それでは映画がヒットしないということで、タイトル変更になったんです。映画のスタッフたちが協議を重ね、侍のイメージの「ちょんまげ」に、F1層が好きなスイーツで劇中に出てくる「ぷりん」を合わせて、このタイトルになった。なるほどそういう考え方もあるんだなと思いました。
今回の『人質オペラ』は水口さんからの提案で、「これがいいと思います!」と自信ありげでしたよね(笑)。

水口 そんなことないですよ(笑)!

荒木 私もちょっとくやしいから、ほかに何かないかと考えたのですが、上回るものが思いつかず、見れば見るほどこれがいい気がして。

水口 使う言葉としては「人質」か「テロ」。あとは群像劇の雰囲気が出る言葉。「テロ」は禍々しいし、「人質」も重いけれど、「テロ」よりはいい。そこに軽やかな言葉を組み合わせたいと思って作りました。

荒木 「オペラ」という言葉を使ったことで華やかなイメージが加わって、とても秀逸なタイトルだと思っています。

水口 ありがとうございます。いよいよ刊行になりますが、そう言えば荒木さんはこの4月に主夫を「卒業」されたとか。

荒木 子供がこの春、大学生になったのをきっかけに、小説に専念することにしたんです。まるきり家事をしないわけにもいきませんが、一人になれる場所に長く行ったり、ひげを生やしてみたりしています(笑)。

水口 主夫時代は、ひげ生やしちゃダメだったんですか?

荒木 別にダメではなかったんだけど、小説家専業になった記念にしようと(笑)。生やし始めて間もないから、まだ落ち着かないけれど。

講談社
2017年5月28日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

講談社

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