【文庫双六】豹、ライオンときたら、次は虎だ――梯久美子

レビュー

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【文庫双六】豹、ライオンときたら、次は虎だ――梯久美子

[レビュアー] 梯久美子(ノンフィクション作家)

 豹、ライオンときたら、次はやはり虎だろう。虎の出てくる話ということで、まず思いついたのが、ストックトンの「女か虎か」である。

 いや、正確には虎が“出てくる”話ではない。出てくるのかこないのか。それがこの異色の短編が読者に投げかける謎であり、読みどころのすべてと言っていい。

 ネタバレしないようにストーリーを説明するのが難しい作品である(というか、タイトルがすでにネタバレともいえる)。下手なことを書くとミステリーファンから非難を浴びかねないので、この作品が収録されているアンソロジー『謎の物語』表紙カバーの紹介文を借用してみる。

〈王女を愛した若者は、身分違いの恋を罰せられる。目の前には扉が二つ。一つには虎、一つには美女。彼が選んだ扉の向こうに待っていたのは……〉

 簡にして要を得た紹介で、まさにこの通りの話である。だが、こうやって書き写してみてあらためて、あらすじだけではまったくこの話の面白さが分からない、ということが分かる。

 つまりは読んでみてもらうしかないのだが、この物語がリドル・ストーリーの傑作とされる作品であることは付け加えておいた方がいいだろう。リドル・ストーリーとは、『謎の物語』の編者・紀田順一郎氏の解説によれば〈結末が作者によって明示されず、読者の想像に任せられている〉物語のこと。日本のリドル・ストーリーの例として紀田氏は芥川龍之介の「藪の中」を挙げている。

 ストックトンは、「女か虎か」の好評を受けて続編「三日月刀の督励官」を発表している。ストックトン以外の作家も大勢この名作の続編に挑戦していて、中でも秀作とされているのがハリウッドの脚本家モフィットの手になる「女と虎と」だという。両方とも『謎の物語』に収録されているので、読み比べると面白い。私としては、残酷な結末に思わずのけぞったモフィットの作品に軍配を上げたい。

新潮社 週刊新潮
2017年10月26日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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