『くまの子ウーフ』
- 著者
- 神沢 利子 [著]/井上 洋介 [イラスト]
- 出版社
- ポプラ社
- ジャンル
- 文学/日本文学、小説・物語
- ISBN
- 9784591069479
- 発売日
- 2001/09/03
- 価格
- 1,100円(税込)
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神沢利子先生『くまの子ウーフ』50周年記念インタビュー
[文] 吉田有希
主人公のウーフが、日々を過ごすなかでさまざまな疑問をいだき、家族や仲間たちと過ごすうちに、その答えを見つけていく『くまの子ウーフ』。長きにわたって小学校の教科書にも掲載され、親子でも読み継がれている児童書です。
その『くまの子ウーフ』が2019年に刊行50周年を迎えることになり、作者の神沢利子先生にお話をうかがいました。お話は他の著書にもおよび、あらためて神沢先生が描いた作品群の魅力が浮かび上がってきました。
心の中にウーフが生き続けてくれているとうれしい
――『くまの子ウーフ』が刊行されてから、半世紀が経とうとしています。
神沢 あっという間ですね、本当に。人生なんてそんなもの。過ぎてしまえば、みんなあっという間。子どものときは、自分がおばあさんになるなんてどんな感じだろうって、不思議な気がしてたけど、おばあさんになってしまったら、なんてこともなかったわね。
――この作品が世代を超えて愛されている理由を、どのように受け止められていますか?
神沢 子供は好奇心のかたまりだと思うんですよね。『くまの子ウーフ』は、いつもどうしてどうしてと考えているから、子供たちは一緒になって、おもしろがって読んでくれるんだろうなあと思っているのだけど。
――子どもの好奇心はいつの時代も変わらないのですね。
神沢 大人になるにしたがって、いろんなことが当たり前になってくると、好奇心が薄れていくっていうことはあるでしょうね。子供にとっては、いろんなことが新鮮だと思います。
――神沢先生は「くまの子ウーフ」という作品の魅力は、どんなところだとお考えですか?
神沢 ウーフはぼーっとしているところがあって、友達のきつねのツネタはちょっとお利口さんでお兄さんぶったりしている。その二人の対比ね。それがこの物語を面白くさせてるんじゃないかと思います。
――そもそもウーフという愛らしいお名前はどこからつけたのですか?
神沢 誰の本か忘れちゃったけれど、翻訳本で、くまが「ウーフー」って言う、というようなのがあったんですよ。いいなと思って、それを名前にしたの。ツネタはきつねらしい名前だから。
――ウーフの、大人ですら答えるのが難しいような疑問はどのようにして生まれたのでしょう?
神沢 私も、ウーフと同じようにいつもわからないんですよ、いろんなことが。私も、いつも、どうして? どうして? って考えているんです。
――子どもたちが持っている疑問を聞いて参考にするようなことは?
神沢 それはないのね。私、自分の子どもくらいしか、子どもとのつきあいがなかったんですよ。だから、子どもたちからヒントを得たとかモデルみたいなものはまったくないの。私の子どものころからの疑問を大事に持ち続けているの。
――『くまの子ウーフ』にまつわるエピソードで、特に思い出深いものは?
神沢 子どもたちからの反応や、お手紙をいただいたなかでは、「ウーフは おしっこでできてるか??」が多いですね。その中に「うんこもあるなあ」っていう感想もありました。でも、おしっこのほうが嘘っぽくて、お話としては、やっぱりおしっこのほうがいいと思ったことがありますね。
――2世代、3世代で『くまの子ウーフ』を読んでいるファンに伝えたいことは?
神沢 ウーフを子どものときに読んで大人になった人、たった今ウーフを読んでいる子どもたち、たくさんの人の心の中に、ウーフがずっと生き続けてくれているとうれしいなと思っています。
大きな動物が好きなのは父親の面影が残っているから
――童話集「神沢利子のおはなしの時間」では『くまの子ウーフ』はじめ、さまざまなお話を読むことができます。ユニークなキャラクターもたくさん登場しますね。
神沢 はい。「ふらいぱんじいさん」なんて、おかしなキャラクターかもしれないですね(笑)。でも、フライパンっていうのは、年を重ねた女の人にとっては特に、切っても切れない相棒みたいなものでね。一本足でまっくろけで油だらけの顔をして、火に焼かれて……。なんかこう、訴えるものがあるんですよ。自分はご馳走食べないで、人にご馳走を作って。そんな主婦としての思いも、入っていますね。
――動物の子どもたちもたくさん登場しています。「いたずらラッコのロッコ」ですとか。
神沢 らっこっていう動物が好きなんですよね。一度、カムチャツカの海で見たことがあるけれど、ほんの一瞬ですね。「待って」と言うこともできないから、波に乗って行っちゃいましたけど。らっこは、宮沢賢治のお話の中に出てきたんですよ。それ以来、どんな動物だろうと気になってたのね。
――『ゴリラのりらちゃん』『ゴリラのごるちゃん』ではゴリラの家族が描かれています。りらちゃんとごるちゃんのお父さんも、大きくてたくましいですね。ご自身の父親像と重なるところはありますか?
神沢 出張ばかりして、家にあんまりいなかったから、子どもと遊ぶようなお父さんではなかったけれど。体が大きかったので、ゴリラや私の好きなクマのような風格は十分にありました。毛がたくさん生えていたしね(笑)。父親の面影が、ゴリラやクマに残っているかと思います。
――では、りらちゃんや、ごるちゃんのお気持ちでこの物語をお書きになったんですか?
神沢 そうですねえ…。でも、それだけじゃなくて、オウムのまーこ、このまーこみたいなキャラクターも、私は好きなのよね。『くまの子ウーフ』に出てくるツネタみたいに、友達にちょっかいを出すのね(笑)。
――ちょっかいの出しがいがありますよね。ウーフはすごく困ったりするから。
神沢 ウーフは真面目で、うぶなところがあるから。ツネタのほうが賢くて、お兄ちゃんぶってるから、馬鹿にされちゃうのね。
――絵本『しあわせなワニくん あべこべの1日』『しあわせなワニくん かんちがいレストラン』では、ワニのカップルが描かれています。ワニを主人公にしようと思われた理由は?
神沢 あんまりかわいらしい動物ではないから、そこにラブストーリーを持ってきたかったんでしょうね。ワニってやっぱり形がおもしろいので、これをなんとか料理しようと思ったの。絵本は絵が重要だから、動物の“形”っていうのは大事ですよね。
たった今を、大事に、十全に、力いっぱい生きてほしい
――ご自分の作品以外の本は、どんなものを読まれていますか?
神沢 今は昔ほどは読まないですね。10代の頃は、宮沢賢治やリルケが好きでずっと読んでいました。好きな作家っていえば、日本ではもちろん宮沢賢治が好きですし、外国でいえば、わりあい女性の作家が好きですね。ルーシー・M・ボストンとか、フィリッパ・ピアスとか、アリソン・アトリーとか。小さい頃はあまり本がなくて、アンデルセンとかグリムくらいしか覚えていませんね。日本の本だと、小川未明とか、浜田広介とか。
――現在はどんな作品を執筆なさっていますか?
神沢 楽しい絵本が作りたいなあと思うんだけれども、なかなか書けないわね。物語絵本ということではなくて、シンプルで、全宇宙がこめられたような短い詩のような絵本。そんなに難しい事柄じゃないんですよね。たとえば、木の実が熟して大きくなるだけでも大自然であるし、命を表してもいる。そういうものです。
――これまでの本には書かれていないものでしょうか。
神沢 書けていませんね。もっともっと単純で…。単純であるということは純粋であるということ、いちばん大事なことね。誰にでもわかって、何かを感じさせる絵本。だから単純じゃないといけないのね。
――最近もやはり、ウーフのように「どうして?」と思うことはありますか?
神沢 いっくらでもありますよ。どうして人間は戦争ばかりしてるの? とか、どうして昔から子供は喧嘩ばかりしているの? とか。子どもは喧嘩ばかりして大きくなるんだけども。
――長い作家生活の中で、ファンの方との印象深い思い出や、作家をしていて良かったという思い出は?
神沢 良かったのは、たくさんの人と出会えたことですね。子どもたちと直接接触することは非常に少ないんですよ。子どもの本は書いているけれども。でも、本を書くことで子どもたちとつながっていけるということが、とてもうれしいですね。子どもの声をそこで聞くこともできるから。私が作った童謡なんかを歌ってくれているのを聴くと、「あ、子どもの心の中に響いているんだなあ」と感じられて、とってもうれしいですね。
――これからを生きる子どもたちや親子にメッセージをいただけませんか。
神沢 そうね…。ちょっと難しいの、今考えていることは。たとえばね、生きるっていうことは息をすることっていうことね。それで、たった今っていうことね。ちょっと前のことは「生きていた」ことになるし、先のことは「生きるだろう」ってことになるから。「生きている」っていうことはたった今ということで、そのたった今の持続が「生きている」っていうこと。そのたった今は、たった今しかないんだから、それを十全に生きるということね。大事に、十全に、自分の力いっぱい。力が及ばなくてもいいのよ、また明日があるんだから。