魔法はいつも日常の中にある。新作絵本『ふしぎなあおいふく』を上梓したサトシンさんインタビュー

インタビュー

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ふしぎなあおいふく

『ふしぎなあおいふく』

著者
サトシン [著]/ドーリー [イラスト]
出版社
ポプラ社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784591158517
発売日
2018/04/26
価格
1,430円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

魔法はいつも日常の中にある。新作絵本『ふしぎなあおいふく』を上梓したサトシンさんインタビュー

[文] 吉田有希

『ふしぎなあおいふく』を手にするサトシンさん
『ふしぎなあおいふく』を手にするサトシンさん

サトシンさんの新作絵本『ふしぎなあおいふく』(絵:ドーリー ポプラ社)は、新しい服を着たら魔法が使えるようなウキウキした気分になってしまうというストーリー。サトシンさんに『ふしぎなあおいふく』がどのようにして出来上がったのか、この本で伝えたいことなどを伺いました。

 ***

——新しい洋服を着たときのワクワク感が伝わってくる絵本ですね。このお話を書こうと思われた理由とは?

 以前書いた『リボンちゃん』(文溪堂)も女の子が登場するお話なんですよ。今度はリボンちゃんみたいな特別な存在の魔法少女ではなく、ごく普通の女の子が想像を広げながら魔法を楽しむ、というお話が作れたらと思いました。多くの子どもたちが共感しやすいように、日常の風景を切り取ってお話の舞台にしよう。そう考えた時にピッタンコと思ったのが、新しい洋服を買ってもらった時の喜びの場面だったんです。

——洋服が鮮やかな青い服であることも目を引きます。

 色って頭の中で想像しやすいですよね。新しいことの始まり、そのワクワク感、すがすがしさを表現するためにも、色にポイントを置きたかった。で、それらを表現する色となると…青がいいなあと。『リボンちゃん』の姉妹本を、という発想もあったので、リボンちゃんのピンクとは対照的となる青を印象的に使いたかったんです。

——サトシンさんは男性ですから、女の子の話を作る時の難しさというのはあるのでしょうか。何か参考にしていることはありますか?

 僕は専業主夫だった時期があるんですよ。一番上の娘が1歳の時に、働くカミさんの代わりに僕が家庭に入って、子どもの面倒をみて。娘が大きくなってくると、おしゃれなものに憧れたり、おしゃまになったり、そんな観察が活きているというのはあると思います。それと、絵本作家になってからこっち、僕の講演を企画してくれたり、イベントに参加してくれたり、お世話になっている方たち、お友だちもたくさんできてきたわけですが、そうやって出会う全国津々浦々の元気で前向きなお母さん、オネエサンを女子たちの集合体として考え、僕の理想の元気でかわいい女の子のキャラクターを、と造形したのが、「あおいふくの女の子」とも言えると思います。

——本に登場する子どもは、洋服についた5個のボタンを押して、5つの魔法を使っていきます。この魔法というのが、子どもが憧れそうなことばかりで。

 まさにあれは、「魔法を使えるとしたら、どんな魔法がいい?」と子どもたちに質問し、聞かせてもらった中でも特に人気の魔法なんです。子どもたちは現在進行形で魔法を想像し楽しんでいるわけですが、大人たちだって、子どものときにこういった想像で楽しんでいた経験は誰もがあったでしょう。ということで、子どもも大人も、想像の世界で一緒に楽しんでくれるといいなと。みんなが持っている、持っていたワクワク感をいい感じで形にできたと思います。

——お話に出てくるのは女の子ですが、想像が広がる本としては男の子も楽しめそうですね。

 今日のイベントを見ていたら、女の子だけでなく、男の子も普通に興味を持ってくれていたでしょう。映画で言ったら『魔女の宅急便』も『千と千尋の神かくし』も『アナと雪の女王』も、主人公は女の子で、だからといって男の子は楽しまない、ということはないですもんね。女の子ならではのかわいさ、元気さってのもあるわけで、そこに絞って描いても、込めたテーマが普遍的でお話がおもしろくできてさえいれば、性別関係なく楽しんでくれるということでしょうね。

——絵を担当されたドーリーさんとは何冊もご一緒されていますが、これまでの絵本とは違ったテイストに。「この絵もドーリーさんなんだ」と驚きました。

 ドーリーはもともと外国のカートゥーンのような、ちょっとしゃれてて楽しげでわかりやすいタッチを得意としてまして、最初は『ま、いっか!』(えほんの杜)のような雰囲気の、細い線の輪郭で描いてくれないかと思ってたんです。そうしたら、想像を広げるお話なので、そのあたりを意識したタッチに新たに挑戦してみたいと。予想できないんでめんどくさ!とは思いましたが、まあ自らがやりたいと思う積極性は素晴らしいことですから。じゃあ頑張ってもらおうじゃないのと。結果的にはチャレンジしてくれて大正解だったと思います。

——直接やり取りをする中で生まれたテイストなのですね。想像する楽しさや魔法が使えたときのキラキラ感が伝わってきました。

 タッチもお話にバッチリ合っているし、ビジュアル構成、展開もいいですよね。ページの流れも自然で、時にメリハリも効いていて。僕はこの本、自分でお話を書いておきながら、自分で読み聞かせしていて後半、グッときて泣いちゃいそうになるんですが、それもお話に絵のチカラが合わさったからこその感情の揺さぶりだと思ってます。

——表紙では、ポーズをとっているのが可愛いですね。

 最初はどうでもいいようなつまんないポーズだったんですよ。ドーリー、それは違うよ。女の子が新しい服を着れたときって、うれしくて、はにかんだりもして、おしゃまな格好をしてエヘッて可愛さがあるだろう、と。で、参考になるようなかわいいポーズの女の子の画像をネットで探して、メールで見本として送って、その雰囲気を汲み取ってもらいながら描いてもらいました。

——サイン会では、表紙を見て「これがほしい!」と手に取っていた女の子を見かけました。

「ヨッシャー!」ですね。いわゆるジャケ買いというか、表紙が気に入って手に取ってくれるお友だちも多いといいな~!と、そこは最初から考えていました。

——特に気に入っているページはありますか?

 魔法ごっこだったはずが、「魔法が本当になっちゃった!」と、最後に思いがけなく成長しているところですね。大きな犬に出会って怖かったんですよ、本当は。いつもだったら逃げちゃうけど、お気に入りの服、しかもごっこ遊びの延長とはいえ、魔法の服ですから。今日は違うもん! 本当に魔法が使えるんだもん! て思ったんですね。その心の動きを想像すると…泣ける~~!(笑)

——昨日まで怖かった犬が、今日はお友だちになれたなら、とてもうれしいですよね。

 犬がペロリ~ンとしたときの「ひゃあっ!」っていうセリフ、あれ、最初はなかったんです。でも、読み聞かせの状況を意識したときに、女の子の驚きを言葉として入れ込んだほうが、一度シーンが止まって印象的でドラマチックになるんじゃないかと。そんな風に、あがったビジュアルを見ながらあらためて構成を考え、文章を変えていくことも僕の場合は多いですね。

——今日のイベントでは、「お父さんが絵本に関わることの大切さ」も語られていました。この本に登場するのは女の子ですが、お父さんが読んでも子どもは喜んでくれるでしょうか。

 こういう本は本来、お父さんは得意じゃないと思われるかもしれないけれど、男性が女の子のセリフを読むことで、逆にミョーに可愛くなっちゃうこともあるんです。お父さんって、子どものために一生懸命読んでいるときのおかしさみたいなところがあって、そういうところこそ逆に子どもにも響いているんです。そういう意味では、この本で女の子を演じることで、お父さんならではの読み聞かせの良さが際立つのではとさえ思ってます。女の子になったくらいの気持ちで照れずに読めば、子どもはチョー喜んでくれますよ。

——お父さんが自分のためにこの本を選んでくれた、という気持ちになるかもしれませんね。この本で子どもたちにどんなことを伝えたいですか?

 魔法みたいなことって、日常の中にいっぱいあるんだよ~!ということですね。あおいふくの女の子は最後に「魔法が本当になっちゃった」と感じるんですが、子どもたちの生活の中には、本当に魔法だと感じられることがたくさんあると思います。縄跳びできるようになった! 友だちができた! みんな素晴らしい魔法のような体験です。想像することや成長することだって、一つひとつが全部魔法。ぜひ、絵本を楽しんだ後は、現実の日常の中で自分なりの素敵な魔法を探していってほしいですね。

——この本と同じように、想像が広がりそうですね。

 この本を読むと、その直後から子どもたちは「僕は大きくなりたい」とか、「変身できるようになりたい」とか、「透明になって、こんなイタズラをしたい」とか、想像したことを話してくれるんですよね。そんな風に、子どもたちが考えていることを引き出せるのも、絵本のいいところ。読み聞かせをするお父さんお母さんも、絵本を読むだけでなく、それをきっかけにいろんなお話ができるようになると、親子コミュニケーションもより楽しくなるんじゃないかなと思います。

文=吉田有希

ポプラ社
2018年7月24日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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