「沖縄エンタメ小説」ひとつの到達点 戦後の渾沌を描く

レビュー

5
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宝島

『宝島』

著者
真藤 順丈 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065118634
発売日
2018/06/21
価格
1,998円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

戦後の渾沌を奔放に描く 沖縄人たちの活劇大作

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 沖縄を舞台にしたエンタテインメント小説は観光もの系を除くと数は多くない。それというのも廃藩置県による琉球処分以後、第二次世界大戦の戦災、その後のアメリカ統治と続く過酷な歴史があるからで、一方でその重さを書き込みつつ、一方で波乱万丈の物語を紡ぎ出すのは並大抵の業ではなかった。だが近年、池上永一や馳星周等、若い作家の果敢な試みによって、壁が乗り越えられつつある。本書はそのひとつの到達点ともいうべき一冊だ。

 物語は一九五〇年代初頭から始まる。米軍の倉庫や基地から物資を奪う若者たち─“戦果アギヤー”が嘉手納基地を襲撃するが脱出時に発見され、リーダーのオンちゃんとその親友グスク、弟のレイは散りぢりになる。グスクとレイは無事逃亡、外で待っていたオンちゃんの恋人ヤマコと合流するものの、オンちゃんはそのまま行方不明に。

 レイたちは嘉手納襲撃がもともと与那国の密貿易団クブラの計画であったことを知るが、鍵を握る一味の仲間、謝花(じゃはな)ジョーは獄中にあった。かくてレイに続き、グスクも自首して刑務所に潜入するのだが……。

 現代のロビンフッドともいえよう英雄キャラクターのオンちゃんは登場して間もなく姿を消してしまう。残されたグスクたちの追跡行を物語の縦軸とすれば、横軸をなすのは、その後の彼らの生活劇であるが、著者はありがちな成長劇には止めず、そこに様々な犯罪や事件を絡ませ、ミステリーとしても読ませる。

 グスクたちはもとより、瀬長亀次郎や又吉世喜といった実在人物等、キャラも多彩で、特にミステリー読みは、琉球警察の刑事となり米民政府諜報部とも通じるグスクの数奇な足跡に注目! 戦後の混沌からコザ暴動を経て返還へと至る沖縄戦後史を奔放な文体で浮き彫りにしながら、逆境にめげず成長、邁進する沖縄人(ウチナンチュ)の姿を活写した超弩級エンタテインメント大作。読み逃すなかれ。

新潮社 週刊新潮
2018年6月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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