川本三郎「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド
レビュー
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川本三郎「私が選んだベスト5」 夏休みお薦めガイド
[レビュアー] 川本三郎(評論家)
平成も終ろうとしている時、昭和の戦後が懐しい。
『火環(ひのわ)』は昭和二十年生まれの村田喜代子の自伝的小説。前作『八幡炎炎記』に続く完結編。
八幡製鐵所の町で育った少女の成長、町の人々の戦後の暮しが、民話のようにおおらかに語られてゆく。
主人公のヒナ子は映画好き。「二十四の瞳」を見て泣き、「ゴジラ」の最期に胸が破裂しそうになる。
中学生の時には新聞配達をしたり町工場で働いたりしながら脚本家を目ざす。
製鐵所の火に励まされるようにたくましい。
真藤順丈『宝島』には圧倒された。沖縄の現代史を描きながら胸躍る冒険小説になっている。
戦後の混乱期から一九七二年の返還まで。沖縄の置かれた不当な状況に若者たちがたち向かってゆく、全篇、熱い。米軍基地から物資を盗んできては貧しい島民に与える「戦果アギヤー」(戦果をあげる者)の義賊ぶりは痛快。
野嶋剛『タイワニーズ』は台湾をテーマにしているジャーナリストが、日本で活躍した(している)台湾人の生き方を辿る。
作家の邱永漢、陳舜臣、東山彰良、温又柔、歌手のジュディ・オング、女優の余貴美子、さらに蓮舫も。
日本にはこんなにも多くの台湾人が活躍していたかと改めて驚く。
サリンジャーは意外なことに兵隊経験がある。ノルマンディ上陸作戦にも参加している。
『このサンドイッチ……』は主に四〇年代に発表された短篇から成っているが、若者たちの青春は戦争のただなかにある。もうじき休暇を終え戦場に戻る者。フランス戦線にいる者。そしてホールデン少年の行く末は。
永井荷風『麻布襍記(あざぶざっき)』はこれまで文庫未収録の作品が入っていて貴重。自選の俳句百句、それと須賀敦子の一文がうれしいおまけ。