脱稿まで7年、読者の語りたい欲を引き出す直木賞受賞作

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宝島

『宝島』

著者
真藤 順丈 [著]
出版社
講談社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784065118634
発売日
2018/06/21
価格
1,998円(税込)

書籍情報:版元ドットコム

改稿を重ねて吹き込んだ登場人物一人一人の“生”

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 米軍統治時代から「本土復帰」までの激動の沖縄史を豊饒な語りの力で照らし出し、満場一致で直木賞を射止めた真藤順丈の『宝島』。芥川賞の講評の場にもかかわらず選考委員の奥泉光が、途中から本作について熱く語り始めるという一幕もあったように、各所で激賞を浴びており、沖縄では売り切れ店が続出。7刷20万部と破竹の勢いを見せている。

「われわれ日本人が沖縄の問題を考える一助になればいい」――作者の真藤は受賞会見でそんなコメントを残しているが、実は脱稿までは紆余曲折の連続。7年前に構想したものの、東京出身の自分が沖縄を描くことへの逡巡に加え、書き進めるほどに現代の沖縄が抱え込んでいる問題と地続きであることが身に染みてわかり、途中2年ほど書けなくなったこともあるという。

「中断中は“とにかく逃げずに書いてくれ、真藤さんなら絶対に書ける”と前担当者であり『小説現代』編集長の塩見が声をかけ続けました。テクニカルなアドバイスではなく、真藤さんの中で覚悟が満ちるまでお待ちしよう、という決意のもと待ち続けました」(担当編集者)

 執筆再開後は担当者との二人三脚。初稿から1年ほどかけ入念なリライトを繰り返した。同じ場面を敢えて複数回書き換え、全てのバージョンの中で最も良く描けていたものに差し替えることもあった。登場人物の描き方もそのひとつだ。

「小説の中だけではなく、隣に座っているような実在感を持たせるべく、普段の生活の様子、身長、体つき、財布の中身など、あらゆる角度で人物について話し合い、掘り下げ、できあがった共通認識を元に一人ずつ全面改稿していただきました。最終的には、グスクならこう言うよね、レイならこんな料理を作ってくれるよね、ヤマコはこんな風に休日を過ごしてるよね、というところまで想像できるほどになり、人間をまるまる3人生み出したような感慨がありました」(同前)

 本作が読者の語りたい欲を引き出すのは、ひとりひとりの生を輝かせる「命(ぬち)どぅ宝」の精神がそこに息づいているせいかもしれない。

新潮社 週刊新潮
2019年2月14日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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