「あんた、口が臭いよ」 ――日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学

レビュー

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ココソコアソコはなぜ臭う?

[レビュアー] 林操(コラムニスト)

 酒場でカラんでくる論敵を「あんた、口が臭(くさ)いよ」の一言で一蹴してたっていう小説家だか評論家だかの伝説は強烈で、言われた側の出バナ挫かれ度は、頭が悪い、性格が悪い、顔が酷いなんてツッコミよりはるかに高かったはず。

 口に限らず臭(にお)いが人間の弱点なのはたぶん、自分の臭さを普段は意識も認識もしていないせい。だから「臭いよ」の一撃で虚をつかれるわけだし、加齢臭なんて言葉に過剰反応して消臭グッズをあれこれ買い込んだりする。

 で、『日本人はなぜ臭いと言われるのか』。この題名は嗅覚版ネトウヨ本みたいで惜しいとして、惹かれたのはサブタイトルと著者・桐村里紗の経歴。「体臭と口臭の科学」を国立大医学部出の30代が説くのなら眉唾度は低そうだなと手に取ってみたら、当たりでした。

 ココソコアソコはなぜ臭うのかの解説が的確なら、ココソコアソコの臭いにはどう対処すればいいのかの指南も具体的。臭いは身体の異常のシグナルだから元から絶たなきゃ駄目! というのが基本姿勢で、口臭対策が歯周病対策に、体臭対策が生活習慣病対策を兼ねるのもありがたい。

 著者の夫は臭い消しに取り組んだ結果、メタボ体型からも脱したとか。歯磨き法の見直しにせよ、食生活の改善にせよ、同じ苦行でも、将来の健康より現在ただいまの臭み取りという現世利益むきだしの人参をブラ下げられた方が人は動く。この新書、ただの脱臭消臭の書じゃありません。

新潮社 週刊新潮
2018年8月9日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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