「ケア」の概念に光を当てた創刊24年・43冊の話を聞く

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ケア学(越境するケアへ)

『ケア学(越境するケアへ)』

著者
広井 良典 [著]
出版社
医学書院
ジャンル
自然科学/医学・歯学・薬学
ISBN
9784260330879
発売日
2000/09/14
価格
2,530円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

「ケア」の概念に光を当てた創刊24年・43冊の話を聞く

[レビュアー] 倉本さおり(書評家、ライター)

 いまや「セルフケア」や「メンタルケア」はすっかり日常に浸透し、2021年には流行語大賞に「ヤングケアラー」がノミネートされたが、二十年以上前は〈ケア〉という言葉は「お肌のケア」といった使われ方がほとんどだったように思う。

 語義の変容は、社会の変容を意味している。その軌跡を語るうえで欠かせないのが、ちょうど2000年から刊行がスタートした医学書院の傑作シリーズ「ケアをひらく」だ。

 同シリーズは「『科学性』『専門性』『主体性』といったことばだけでは語りきれない地点から〈ケア〉の世界を探る」をコンセプトに、多種多様な著者がそれぞれの立場から〈ケア〉について考えていく企画。これまでに大宅壮一ノンフィクション賞、新潮ドキュメント賞、小林秀雄賞、大佛次郎論壇賞などの受賞作を輩出し、19年にはシリーズ全体が毎日出版文化賞を受賞した。最初の一冊となった広井良典『ケア学』をはじめ、どの本もロングセラーとして愛されている。

 なぜ〈ケア〉という言葉に着目したのか。立ち上げから二十四年にわたって編集を担当してきた白石正明氏は「看護や介護をはじめ、その行為に携わっている人たちへの敬意がまずあった」と振り返る。

「彼らが実際に現場でやっていることって、どの専門分野からもはみ出しているために見えにくく、わかりにくいんですよ。だから過小評価されてしまう。彼らが尊敬に値する人たちだということをどうにか言葉で説明したかった」(同)

 執筆陣は研究者や看護師、福祉施設の運営に携わる人びとにはじまり、思想家や写真家など実に多岐にわたる。それぞれの読み味も、ルポやエッセイ、哲学書、評伝とまったく異なる一方で、ケアそのものの全体像がおのずと浮かび上がってくるのが面白い。

「当初はケアという、言語化しにくいものを言語化する作業にもがいていましたが、続けていくうちに、そもそも現実はひとつの言葉で表せないものなんじゃないか、と」(同)

 ひとことでいえないから「ひらいて」みんなで考える。そこから社会をデザインする営みがたちあがる。

新潮社 週刊新潮
2024年3月21日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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