『LIFE3.0──人工知能時代に人間であるということ』
- 著者
- マックス・テグマーク [著]/水谷 淳 [訳]
- 出版社
- 紀伊國屋書店出版部
- ジャンル
- 自然科学/自然科学総記
- ISBN
- 9784314011716
- 発売日
- 2019/12/28
- 価格
- 2,970円(税込)
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近い将来にも実現しうる“AI”がもたらす次世代の生命
[レビュアー] 佐藤健太郎(サイエンスライター)
人工知能(AI)に関する本は、近年数え切れないほど出版された。だが本書の考察の深さとスケールは、群を抜く。タイトルは、単に増殖できるだけの生命がライフ1・0、知識や文化というソフトウェアを自ら創り出し、更新できる人類が2・0、そしてハードウェアをも自らデザインし、変更できるAIが3・0という趣旨だ。この「次世代の生命」に対して人類はどう対峙すべきか、著者が最先端の研究者と対話を重ねた結果がまとめられている。
プロローグでは、超知能というべきAIがそれと知られぬよう経済と政治を支配し、世界をユートピアに導く経過が小説仕立てで語られる。SF小説顔負けの面白さであり、実はこれは現実に進行しつつある事態なのではないかと思わせる、背筋が寒くなるようなリアリティもある。
第一章以降で、AIが今後引き起こすであろう様々なシナリオが検討される。もちろん自動運転や画像診断などで我々の生活を大きく改善してくれる可能性も秘めているが、悪意を持つ者によるハッキングや、防御不能な兵器への転用など、戦慄すべき未来図もここで描かれる。だが著者は「留意を伴う楽観論」を唱え、AIに対してあくまでポジティブなスタンスを取る。
話はAIをめぐる法律や倫理から、将来の宇宙像にまで及ぶ。著者の専門である宇宙物理学の知識をフルに生かした論考は、実に壮大で驚くべきものだが、読者の楽しみのために内容の紹介は控えておくとしよう。
AIの進歩が、いつごろ何をもたらすかの予測は難しく、人によって見解は大きく分かれる。だが本書で描かれている未来図のいくつかは、我々が生きている間にも十分実現しうることだ。AIと人類という、現代における最重要課題を考える上で不可欠な知識と観点を、本書はエンタテインメントに包みつつ提供してくれる。二〇二〇年のベスト候補に推したい、読み応え抜群の一冊だ。