『マンガ 認知症』
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認知症あるあるな行動の「わけ」
[レビュアー] 渡邊十絲子(詩人)
認知症関連書籍はもうお腹いっぱいという人にも、自分の親もそろそろかと不安な初心者にもおすすめできる一冊が出た。ニコ・ニコルソン、佐藤眞一『マンガ 認知症』だ。
マンガは認知症の祖母と介護者である母の日常をコミカルに描き、老年行動学の専門家の解説がそこに的確にかみあっている。
「突然怒りだすのはどうして?」「家にいるのに『帰りたい』と言うのはなぜ?」など、日常生活のなかで意思疎通が困難になる場面をすくいあげる話題設定もいい。
「物盗られ妄想」で犯人にされてしまったり、同じ質問に何十回もくりかえし答えなければならなかったりと、介護者が疲弊するポイントはどの家でもだいたい似たようなもの。こうした行動があらわれる「わけ」を知ることで、認知症の人の機嫌をなおし、周囲の人のストレスも減る方法が提案されている。家族による介護から施設での介護への「切り替えどき」もわかる。
漫画家のニコ・ニコルソンは、東日本大震災で倒壊した実家を建てなおすまでを描いた『ナガサレール イエタテール』や、自称「特殊漫画家」根本敬が巨大絵画に挑戦するドキュメンタリー『根本敬ゲルニカ計画』など、どんな対象を描くときもどろどろした情念はもちこまない人だ。扇情的な要素ぬきで読者をまっすぐひっぱっていく力がある。佐藤眞一のさらっと明るく理知的な解説との相性は抜群。これは読み物として楽しむのもアリだ。