動物ってかわいいよ。動物のリアルな生態をやさしいタッチで描く絵本作家ひだのかな代さん

インタビュー

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ねこがさかなをすきになったわけ

『ねこがさかなをすきになったわけ』

著者
ひだのかな代 [著]
出版社
みらいパブリッシング
ISBN
9784434263774
発売日
2019/08/23
価格
1,540円(税込)

動物ってかわいいよ。動物のリアルな生態をやさしいタッチで描く絵本作家ひだのかな代さん

[文] みらいパブリッシング

ペンギンは、歩くよりお腹で滑るほうが得意。
ハリモグラは臆病で、隠れたくなると穴を掘る。
猫は、温度や幅をヒゲで測っている。

かわいらしい動物たちの、そんな生態を知っていましたか?


絵本作家のひだのかな代さん

北海道在住の絵本作家、ひだのかな代さんは、動物のリアルな生態を描くことにこだわりながら、個性豊かな動物たちが活躍する物語をたくさん生み出しています。

ひだのさんの描く動物は、人間のように服を着たり、カフェでお茶したりはしません。ありのままの姿で、人間以外の生き物から見た世界がどうなっているのか教えてくれます。

動物ってこんなことを考えてるんだ。こんな世界で生きてるんだ。そんな想像をめぐらせることができるのが、ひだのさんの絵本の最大の魅力です。

ひだのさんは、どうしてずっと動物を描き続けているのだろう? 北海道で2匹の猫と家族と暮らすひだのさんに、話を聞いてみました。

南極のペンギンとホッキョクグマが一緒に遊ぶ姿は、ぜったいに描きません

――ひだのさんの絵本には、動物のリアルな習性がたくさん描かれていますね。

本当の動物に興味を持ってほしいから、できるだけ実際の生態に基づいて物語を展開するように心がけています。だからわたしの絵本では絶対に、南極のペンギンとホッキョクグマが一緒に遊ぶ姿は描きません。動物たちが洋服を着て二足歩行をすることもありません。

――絵本だからファンタジーでも良いはずですが、リアルにこだわる理由はあるのでしょうか。

動物を、本来はありえない設定でキャラクター化してしまうと、本当の動物たちの姿が伝わりにくくなってしまうんですよ。本当の動物に興味を持ってほしいというのが、わたしが絵本を描くときにいつも思っていることなので。


『あいにいくよ』の主人公はハリモグラ。危機一髪で大好きなモグリンに会いにいきます

動物を好きになると、人に対しても地球に対しても優しくなれる

――動物が好きなんですね。

そうなんです。昔から大好きなんです。子供の頃、動物の図鑑を眺めながら、いろいろ空想するのが好きでした。キリンたちはこんな会話をしているのかな、とか。

大人になってからは、旅行に行くときは必ずその土地の動物園を訪ねることにしています。インドネシアの動物園では、オランウータンの赤ちゃんを抱っこしたり野生のクジャクに会えたので、本当にうれしかったです。『ペンギンがとぶ』という絵本も、旭山動物園でペンギンが泳ぐ姿を下から見上げたときに、羽ばたいている鳥に見えたことからヒントを得て描いたんです。

――人生も創作活動も、動物とともに歩んでいる感じですね。

そうですね。そんなふうに、自分がずーっと動物好きとして生きてきて、ひとつ気づいたことがあって。それは、動物を好きになると、人に対しても優しくなれたり、地球のことを考えられるようになるということです。たとえば、ペンギンってかわいいな。どうして数が減っているんだろう? というふうに。そういう人が増えていけばいいなと思って、わたしは絵本を描き続けています。

いままで出した本のなかで、印象に残っているもの

――10冊以上本を出されていますが、そのなかで印象に残っている本はありますか?

なんだか最近、『いただきますレストラン』の評判がいいんです。最初に描いたときは、このピンクのイカさんがもっとダークな感じだったのですが、出版にあたってラブリーに描き直しました。ぜんぜん怖くないでしょう?


最後のオチが衝撃的な『いただきますレストラン』。色々な海の生き物が登場します

『ねこちゃんどうしたの?』も印象に残っていますね。最初によくないことが起こるところからはじまって、そこから「どうして?」とひとつひとつ遡って原因にたどりついていくという物語の構成を、けっこう面白くつくれたのではないかと思っています。時間を巻き戻していく絵本って、あまりないですよね。

去年の夏に出した『ぷかぷかぽかぽか』は、「きらきら」とか「にこにこ」とか、くりかえし言葉だけで描いた絵本です。コロナのことで私自身、いろいろ考えるのが嫌になってしまって。あえて考えないようにしよう、ばかばかしいことしよう、と思って描きました。くりかえし言葉って、口に出して言うだけで楽しくなってくる言葉なので。

絵本って、読み手がいてはじめて熟成していくものなのなんじゃないかな

――ひだのさんは、読み聞かせの活動も行っていますよね。読み聞かせでは、どんな反応がありますか?

胎内記憶を描いた『うまれるまえのおはなし』は、やっぱり泣かれる方が多いですね。それから、『ねこがさかなをすきになったわけ』も、意外と泣かれる方がいます。

この本の読み聞かせをしていて面白いと思うのは、みんながみんな主人公に自分を投影するわけではないということです。だいたい年齢によって分かれるのですが、お父さんお母さん世代の方は主人公の“赤猫”に、子供は赤猫のお腹のなかの“ばい菌”に、ご年配の方は食べられてしまう“魚”に、それぞれ気持ちが入ってしまうんですよ。

読み終えたあと、あるおばあさんが、急に泣きはじめたんです。「わたしはもう、誰かのために命を投げ出してもいいと思ってる。この魚のように、死ぬ前にできるだろうか」って。あぁ、このおばあさんは、もう自分が人生の主人公ではないんだなと思いました。

そんなふうに人から感想を聞くたびに、自分のなかで物語がさらに肉付けされていくんです。絵本って、描いているときは一生懸命ひとりで色々考えているけど、出版して完成ではなく、読み手がいてはじめて熟成していくものなのなんじゃないかな。

小説だと文字で説明するぶんそこまで深読みできないことも、絵本は絵で想像させる部分が大きいから、読み手次第でどうにでもとれる。だからこそ、長いあいだ読み継がれることで、深みが出たり厚みができたりしていく。そう考えると、わたしっていい仕事させてもらってるな、ありがたいな、と思います。


じっと見つめる赤猫が印象的な『ねこがさかなをすきになったわけ』。韓国語版も出版

――読み継がれる限り、物語は永遠に広がり続けるのかもしれませんね。最後に一言、お願いします。

動物に興味を持ってほしいと言いましたが、もともと自分自身、説教くさいことは好きではないので、ただおもしろいものを描いて、おもしろいと思ってもらえたらそれだけでいいと思っています。それがいちばんの興味の入口になると思うので。社会に沈んだ空気が漂っている今だからこそ、ばかばかしくて楽しいものをつくっていきたいです。それがわたしの専門というか、できることだと思うから。

〈おまけの質問〉

Q.ここだけの話を教えてください

最近、YouTubeで踊るのにハマっています。おすすめのチャンネルはタケマリです。踊っているうちにかなり体力がついてきました。それから、おがくず酵素浴や月1のプチ断食もはじめました。思うように出かけられないこの時期だからこそ、リフレッシュは積極的にしています。

 ***

話を聞いた人:ひだのかな代さん

絵本作家・ラジオパーソナリティ
『ねこがさかなをすきになったわけ』『りんごりんごろりんごろりん』『うまれるまえのおはなし』はけんぶち絵本の里大賞びばからす賞を受賞するなど、受賞歴多数。近著に『いただきますレストラン』『あいにいくよ』など。講演活動なども行う。AIR‐G’FM北海道「にこにこぎゅっ」パーソナリティとしても活躍中。また、月に一度、札幌の「俊カフェ」で絵本のワークショップ「絵本づくりの発想法」を開催している。

文:笠原名々子

みらいパブリッシング
2021年3月11日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

みらいパブリッシング

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