人間の肉は飽きやすい――『ミステリー・オーバードーズ』著者新刊エッセイ 白井智之

エッセイ

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ミステリー・オーバードーズ

『ミステリー・オーバードーズ』

著者
白井智之 [著]
出版社
光文社
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784334914011
発売日
2021/05/26
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

人間の肉は飽きやすい

[レビュアー] 白井智之(作家)

 探偵役(たち)が推理を披露する。だがその推理は奇想天外、ときに全くの的外れで、その推理によって事件はさらに混迷を深めていく―。

 洋の東西を問わず、ミステリーにはそんな作品がある。海外ならアントニー・バークリーやコリン・デクスターの作品がまず思い浮かぶ。本邦ではやはり小栗虫太郎『黒死館殺人事件』が先陣にして頂点だろうか。ぼくはこうした作品が大好きで、いつか自分も書いてみたいと思っていた。

 とはいえ単にめちゃくちゃな推理を繰り返すだけでは、過去の素晴らしい作品にとても太刀打ちできない。型破りな推理に揺さぶられた果てに、そこにしか見えない不思議な光景が広がっている―そんな作品を書いてみたいと考えていたところ、ギャスパー・ノエ監督のとある映画を観たことがきっかけで、物語が浮かんだ。本作に収録した中編「ディティクティブ・オーバードーズ」がそれである。

 前作となる作品集『少女を殺す100の方法』は少女の大量死を共通のテーマとしていたが、本作は食べること、または何かを身体(からだ)に取り込むことをテーマとしている。書き始めた頃は人間をたくさん食わせようと思っていたのだが、同じものばかりでは美味(うま)くてもすぐ飽きるので、コース料理のようにいろいろなものを食わせることにした。といってもシェフが好きな料理を並べただけなのだが。

 他のメニューを紹介しておくと、ごはんが大好きなグルメ探偵が大活躍する「グルメ探偵が消えた」、淡い初恋に胸騒ぎが止まらない「げろがげり、げりがげろ」、お隣さんとの心温まる交流を描く「隣の部屋の女」、大食い大会に情熱を燃やす若者たちの熱きドラマ「ちびまんとジャンボ」といった次第。ぼくは人がものを食べる話と本格ミステリーが大好きなので、この本はお気に入りの一冊になった。なんだか怪しいと思った方もご安心を。みんなもやってるし、一度だけなら大丈夫だよ。

光文社 小説宝石
2021年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

光文社

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