真田家最大の攻防戦に誰もが胸を熱くする…書評家・細谷正充が紹介する戦国小説『真田の兵ども』

レビュー

4
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真田の兵ども

『真田の兵ども』

著者
佐々木 功 [著]
出版社
角川春樹事務所
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784758413961
発売日
2021/12/15
価格
1,870円(税込)

書籍情報:openBD

佐々木功の世界

[レビュアー] 細谷正充(文芸評論家)

 織田信長配下の武将・滝川一益を主人公にした『乱世をゆけ 織田の徒花、滝川一益』で、第九回角川春樹小説賞を受賞してから、佐々木功は一貫して戦国小説を書き続けている。最新刊となる『真田の兵ども』もそうだ。今回は戦国時代の中で、独自の輝きを見せた真田家の男たちと、その周囲の人々を熱く描いているのである。

 物語の幕が上がるのは、豊臣秀吉の死の二年後、慶長五年(一六〇〇)である。豊臣と徳川。天下を二分する、どちらに付くべきなのか。真田家は、昌幸・信繁(幸村)の父子が豊臣、昌幸の息子で信繁の兄である信幸が徳川に付くことを決める。どちらが天下を取っても、真田の家門を残すためである。

 その真田家に、源吾という忍びの若者がいた。まだ物心のつかない頃、昌幸を徳川の刺客から守って、母親が死亡。このことから深い恨みを抱き、いつか徳川を討つことを願っている。だから昌幸・信繁が豊臣に付いたことは、喜ぶべきことである。しかし源吾が命じられたのは、昌幸と信幸の繋ぎ役―連絡係だ。徳川と戦えないことに不満を感じながら、繋ぎ役に従事する源吾。やがて関ヶ原の戦いが迫り、真田の上田城には徳川秀忠を大将とした大軍が襲いかかる。かくして世に名高い・上田合戦・が始まるのだった。

 本書は群像ドラマといいたくなるほど多数の人物が登場するが、中心となるのは真田昌幸・信幸と源吾である。信繁は要所々々に現れては場面をさらう、美味しい役どころだ。徳川家康に憎まれている真田家を、いかに守るのか。生き残りのために奮闘すると同時に、戦国の武将としての意地も見せる。それを具現化したのが上田合戦だ。ちなみに上田合戦は第一次と第二次があり、本書で扱われているのは第二次である。天正十三年(一五八五)に真田が徳川を撃退した第一次上田合戦を、敵も味方も踏まえながら、戦おうとするのだ。ちなみに第二次上田合戦は、関ヶ原の戦いの前哨戦として非常に有名であるが、実際にどのような戦いだったのか、はっきりしていない。つまり想像の余地が大きいのだ。これを利用して作者は、真田家を慕う領民たちまで取り込み、再び徳川の大軍に痛撃を与える、興奮必至の合戦を創り上げたのである。心優しき領主に守られた、小さなユートピアともいうべき上田の地を守るため、身分を超えて一丸となる人々の姿が気持ちいい。

 とはいえそこには、昌幸の戦略があった。小勢力である真田家が、領民に与えられるものは少ない。だからこそ、慈しむことで支持を得る。もちろん領民を守りたいという心に嘘はないが、打算込みの心情なのである。そこから昌幸の苦渋と、したたかな生き方が伝わってくるのだ。

 さらに本書は、もうひとつのクライマックスがある。関ヶ原の戦いで、源吾が家康の命を狙うのだ。ここで作者は、凄くハッタリの効いた展開を披露している。いままでの佐々木作品は、実直な作風で、このようなハッタリはなかった。それを見事に使いこなしている。ここには作者の成長が、強く感じられる。

 また、真田十勇士の扱いにも留意したい。明治・大正時代に発行された立川文庫により、真田幸村に仕え、縦横無尽の活躍をする十勇士の人物像が確立。以後、多数のエンターテインメント作品に登場している。したがって現在、十勇士を扱うなら、どのような設定にするのかが、常に問われてしまうのだ。

 では作者は、どうしたのか。最初の方で、真田忍びの頭領の戸隠十蔵が、真田家の家臣・筧出雲守十兵衛という表の顔を持っていると書かれた時点で、十勇士のひとりの筧十蔵であることが分かる。昌幸の命を狙いながら、仕えている服部家を見限り、真田家に寝返った伊賀の賽は、いうまでもなく霧隠才蔵。そんな調子で、思いもよらぬ形で十勇士が現れる。これが楽しい。本書は真田十勇士が集結するまでの物語にもなっているのだ。

 もうひとついうなら、本書は源吾の成長物語でもある。作者は源吾に、ふたつの正体を与えて、その数奇な人生の歩みを活写する。ひとつの正体は、手掛かりとなる文章があるので、気づく人もいるだろう。もうひとつの正体は、よほど歴史に詳しくなければ分からないはずだ。これ以上、詳しく書くのは控えるが、凝った設定を背負った若者なのである。それを生かしながら作者は、源吾が自分の道を見つけるまでを、じっくりと表現したのだ。

 最後に、関ヶ原の戦いの前に家康が開いた小山評定について触れておこう。作者のデビュー当時のことだ。私は本誌で、作者と対談をした。そのとき、小山評定の話を書いているといっていたのだ。残念なことだが、独立した作品に結実することはなかった。しかし、本書のストーリーに織り込まれているではないか。自己の興味のある題材を温め続け、ついに表に出したのだ。ストーリーの面白さや、キャラクターの魅力だけでなく、こうした作家としての姿勢も、大きく評価したいのである。

協力:角川春樹事務所

Book Bang編集部
2022年2月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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