「ダウンタウンにはなれない」絶望について、ノブコブ徳井、佐久間P、放送作家・オークラが考えること

対談・鼎談

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敗北からの芸人論

『敗北からの芸人論』

著者
徳井 健太 [著]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784103544418
発売日
2022/02/28
価格
1,430円(税込)

書籍情報:openBD

「ダウンタウンしか認めない」からの解脱

[文] 新潮社


左からオークラさん、徳井健太さん、佐久間宣行さん

徳井健太×佐久間宣行×オークラ・対談「『ダウンタウンしか認めない』からの解脱」

ある年代のほぼすべての芸人は、「ダウンタウンにはなれない」絶望を一度は抱くという。あの東野幸治さんですらその面白さに圧倒され、「自分の世界にダウンタウンはいないもの」とし、『ごっつええ感じ』終了以降ダウンタウンとの共演は断ってきたらしい。芸人やバラエティ番組の「すごいところ」を考察する芸で再ブレイク中の平成ノブシコブシ・徳井健太は、そんな芸人たちの絶望とそこから売れっ子に這い上がった21組の生き様を、新刊『敗北からの芸人論』に熱く綴った。徳井さん、お笑い番組『ゴッドタン』のプロデューサー・佐久間宣行さん、同番組の放送作家・オークラさんが、芸人という仕事について語りつくす。

 ***

佐久間 この本ですごくいいなと思ったのは、先輩後輩関係なく、取り上げているすべての芸人に対して、徳井くんが憧れの目線で考察しているところ。これは「腐り芸人」企画ともまた違った視点だよね。

徳井 それについては、芸人仲間からもよく言われます。自分以外の芸人に対して、「面白いな、いいな」って尊敬の念を抱くことは僕にとってごく自然な感情で、逆になんでそう思わないんだろうと不思議になるくらいです。

オークラ 素直だね~(笑)。


徳井健太さん

徳井 「自分が出ていないバラエティをそんなにたくさんよく見られるね」とも言われるんですが、そんな僕でも芸人になってしばらくは、テレビをまったく見られない時期がありました。

オークラ 『はねるのトびら』とか?

徳井 『はねる』とか『ワンナイR&R』とか、『ヘキサゴン』もほとんど見られず、いま振り返るとただの嫉妬なんだと思いますが。

オークラ 僕にも似たような経験があって、芸人を目指していた頃、『めちゃ×2イケてるッ!』や『笑う犬の冒険』なんかは見られませんでした。

徳井 「自分の方が面白い!」という自意識ですか?

オークラ それもあるけれど、それ以上に、「ダウンタウンしか面白いと認めたくない」という、なかば狂信的な思い込みからかな。放送作家になってから、番組の作り方を勉強するために見たら……当然、めちゃくちゃ面白かった(笑)。

徳井 ダウンタウンさんと言えば、本では東野幸治さんのことも書かせていただいたのですが、20代でコント番組をはじめ、ダウンタウンさんとの濃密な共演を経験した東野さんは、その圧倒的な面白さに対して、「自分の世界にダウンタウンはいないものとする」と決めて生きてきたそうです。僕からしたら、東野さんの面白さも圧倒的なのに、「最初から負けると決まっている戦いはしない」ともおっしゃったので、心底驚いて。でも東野さんがそれほどに崇拝し畏怖するのも仕方ないというか……。「ダウンタウンにはなれない絶望」というのはある年代のほぼすべての芸人が抱く感情だと思っていて、この本を書いた動機の一つでもあります。

佐久間 そもそも徳井くんはどんなモチベーションで芸人になったの? 自分には才能があると信じて、誤解してお笑い芸人になろうとする人がほとんどだと思うけど、徳井くんはその「誤解」がどのくらいだったの?

徳井 僕はもともと料理人を目指していました。でも高校のクラスで一番人気があって、しかも“ダウンタウンオタク”の女子に「徳井くんは芸人になった方がいいよ」って突然言われたんです。「もっと明るくて面白いやつ、他にいるだろ」と反論したのですが、「いや、徳井くんみたいな人が一番面白いと思う」と即答されて。それで芸人になることにしました。

オークラ 女子からの何気ない一言が決定的に効くのは……よくわかります。

佐久間 上京してNSC(吉本興業の芸人養成所)に入ってからも、その言葉だけを道しるべとして、灯台の光として頑張ったの?

徳井 そうです。でもNSCに入ったら、のちに「ピース」を組む綾部(祐二)と又吉(直樹)くんと同期で、二人はその時点ですでにものすごく面白くて……あっという間に心は折れました。もうパチプロにでもなるかなーって授業にも出ず何もしないまま1年過ごして卒業したら、その1ヶ月後くらいに喋ったこともない吉村(崇)から電話がかかってきて、「コンビを組まないか」と誘われたんです。つまりは、他人に言われるがまま流されて、今に至ります(笑)。

佐久間 そうか、だから芸能界全体に対して、確固たる傍観者の視点があるのか。

徳井 そうなのかもしれません。千鳥さんみたいに学生時代から漫才やって人気者でした、みたいなエピソードは一つもないですし。

オークラ 芸人にはあんまりいない、不思議な経歴だね。


佐久間宣行さん

佐久間 とはいっても、芸人さんというのは全員、どこかで自分の面白さを信じてその世界に飛び込んでいる、飛び込む勇気がある人たちだと僕は思っていて。徳井くんしかり、かつて芸人だったオークラさんしかり。いまはフリーランスになったけれど、僕自身は大学を卒業してサラリーマンになった人間だから、余計にそう感じるんだよね。だから、この本を読んでいて、そこの部分――芸人さんたちが「自分のどこが一番面白いと思っているか」という部分に触れることができたのが、特に面白かった。

オークラ たとえ1ミリだとしても、「この部分では誰にも負けない」「この角度からなら俺が一番」という気持ちは確かにどの芸人にもありますよね。

佐久間 そうそう、その自信の在り処がそれぞれどこなのかということは、僕が作り手側としていつも意識しているところです。いま話していて思ったけれど、徳井くんがこの本で考察しているのは、各芸人さんのそういった「核の部分」じゃないかな。

徳井 なるほどー!

オークラ 「芸人っぽくない褒め方をするな~」と僕が感じていたのは、それが原因ですね。

徳井 え、どういうことですか?

オークラ 取り上げている芸人に徳井くんが芸人として勝っているところを、少しも書いていないでしょう?

徳井 誰にも勝ってないと思っているのかもしれません(笑)。

オークラ それはそれですごいな(笑)。でもこれは立派な「芸」だよね。人を分析するという芸。

徳井 僕としては分析や批評をしているつもりはなくて、例えば「人より前に出て大きい声を出すってことは話を振られるのが苦手なのかな」というように、興味を持って見ているだけなんです。あまり深い意味はないというか……。

オークラ 深い意味はないのに、256ページも書いたの?(笑)

徳井 良いところ、褒めたいところがたくさんあった、ということにしましょう!

新潮社 波
2022年3月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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