『ウクライナ・ファンブック』
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いまこそ知りたい!楽しきウクライナの素顔
[レビュアー] 都築響一(編集者)
ゼレンスキー大統領がキーウからメッセージを送るとき、よく背景に奇怪な建物が映っているのに気がついたひとはいるだろうか。「キメラハウス」と呼ばれるあの建築はアールヌーボー期の建築家によって20世紀初めに自邸としてつくられ、現在は大統領公邸となっている建物で、外壁全面がゾウ、サイ、シカなどさまざまな動物の彫刻で覆われたグロテスクな造形美で知られている。
毎日ウクライナのニュースに接しながら、僕らが見せられるのは破壊されたウクライナの街と生活だけで、ほんとうは(わずか3ヶ月前までは)どんな国であって、そこでどんなひとびとが、どんなふうに日々を楽しんでいたのか、まったく知ることができない。
『ウクライナ・ファンブック』は2020年3月に刊行されて、当時は一部の東欧マニアを喜ばせたくらいだったのが、今回の戦争によっていきなり注文殺到、現在5刷が配本されたばかりという。著者の平野高志さんはウクライナ国営通信の日本人編集者兼写真家、いまのウクライナの素顔を教えてくれる最高の案内人。この本を持ってウクライナを旅したい!と思わせてくれる一冊はこれしかない。
「旧ソ連・共産主義体制 チェルノブイリ・クリミア占領 う、暗いな…」と出版社の紹介文冒頭にあるけれど、現在のウクライナは世界有数のIT先進国であり、ロシアに積み出し港を押さえられたとたんに世界が小麦危機になったほど豊かな土地と美酒美肴で知られ、森林地帯でロシア軍が苦戦するほど緑豊かな国でもある。
一日でも早くこんなウクライナが甦ってくれるよう、こんなウクライナを訪ねられる日が来てくれるよう願いをこめて、いまだからこそ手に取ってほしい。なお平野さんはTwitterで日々ウクライナ情報をアップしているので、こちらもフォローを! @hiranotakasi