【役に立つ】コロナ禍で楽しむ温泉

レビュー

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

戦国武将を癒した温泉

『戦国武将を癒した温泉』

出版社
山と溪谷社
ISBN
9784635823623
発売日
2021/11/12
価格
1,980円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【役に立つ】コロナ禍で楽しむ温泉

[レビュアー] 磨井慎吾

暑さも日増しにやわらぎ、そろそろ秋の行楽シーズンの予定を考える頃合いになった。

新型コロナウイルス禍の中で迎える秋も3度目。昨年と異なり行動制限はないが、過去最大の感染者数となった第7波はいまだ収束しきらず、感染状況を見極めながらの旅行となることが予想される。そこで密になりにくい穴場として候補に挙がるのが、比較的静かな温泉地や秘湯だ。温泉や入浴について、独自の楽しみ方を追求している3冊を選んだ。

『戦国武将を癒やした温泉 名湯・隠し湯で歴史ロマンにつかる』(上永哲矢著、天夢人・1980円)は、歴史的人物ゆかりの温泉地51カ所を歴史紀行作家が訪ねたガイドブックだ。根拠があいまいな伝承より史料、豪華な食事の高級宿より泉質を重視したという選定基準のもと、地元民から愛される共同浴場などを中心に案内する硬派ぶりが快い。

戦国の三英傑がらみの温泉では、豊臣秀吉の有馬(神戸市)、徳川家康の熱海(静岡県熱海市)は有名だが、織田信長にはこれといった話がない。信長の一代記『信長公記』にも配下の武将は湯治に出かけている記述があるのに、本人は温泉に興味がなかったのだろうか。そんな中で、信長が訪れた可能性がなくもないのが下呂温泉(岐阜県下呂市)という。

また、「武田信玄の隠し湯」をうたう温泉はやたらに多いものの、信玄自身が傷を癒やしたことが史料に記される唯一の場所が湯村温泉(甲府市)。甲府駅からほど近い割には、それほど知られていない。

***

密の回避という観点を突き詰めると、人のいない所に一人で入るのが理想になる。『絶景温泉ひとり旅そろそろソロ秘湯』(渡辺裕美文・写真、藤本たみこまんが・イラスト、小学館・1430円)は、施設もない山奥に湧く「野湯(のゆ)」など、全国66カ所の上級者向け秘湯をルポする。

野湯と一口にいっても、式根島の海岸の岩場に湧く地鉈(じなた)温泉(東京都新島村)のように、地元の観光協会も紹介する入りやすいものから、北アルプスの山小屋を出て川を渡渉し、河原に湧く高熱の源泉を川の水で割って入る湯俣(ゆまた)温泉(長野県大町市)など、登山経験のある人しか無理な場所まで幅広い。人が行かない野湯になるほど、有毒ガスや野生動物などのリスクも高くなる。巻末には野湯訪問の装備や心得も解説されており、十分な準備の上で実力に合った場所を選ぶ必要がありそうだ。

 ***

一方、密回避という点では不利ながらブームが続くサウナ。社交場の役割が強い本場フィンランドとは異なり、黙々と入る人が多い日本流のサウナは、コロナ禍以降も独自の発展を遂げている。在フィンランドのサウナ文化研究家による『クリエイティブサウナの国ニッポン』(こばやしあやな著、学芸出版社・2750円)は、現代日本のサウナについて「世界のどの国よりも、クリエイティブで、エネルギッシュ」と評する。

例えば温泉文化が根強い土地のスーパー銭湯ながら、あえて大規模なサウナ施設を整備して成功した「湯らっくす」(熊本市)。地元の名水を使用して趣向を凝らした水風呂が目玉で、週末客の半分は県外から、さらにその半分が東京都民という。他にもサウナ新興国ならではの自由な発想の施設が各地で続々と誕生していることが紹介され、日本の入浴文化でいま最も熱い分野がサウナであることを実感させてくれる。

産経新聞
2022年9月4日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク