【聞きたい。】鈴村裕輔さん 『政治家 石橋湛山』

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政治家 石橋湛山

『政治家 石橋湛山』

著者
鈴村裕輔 [著]
出版社
中央公論新社
ジャンル
歴史・地理/日本歴史
ISBN
9784121101419
発売日
2023/09/07
価格
2,200円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

【聞きたい。】鈴村裕輔さん 『政治家 石橋湛山』

[文] 磨井慎吾

■現実主義者となった理想家

戦前日本を代表する自由主義の言論人であり、戦後の昭和31年に首相となった石橋湛山(1884~1973年)。大正時代に植民地放棄と貿易立国を軸とする「小日本主義」を説き、軍国主義に傾く時流を批判するなど、その言論活動は今日なお称賛されるが、政治家としては病気のため在任わずか65日で首相を辞任したこともあって、あまり注目されてこなかった。

だが、それは正当な評価なのだろうか。「言論で社会を良くするのが自分の使命と思っていた石橋にとって、先見性や見立ての正しさばかり言われるのは決して好ましいことではなく、むしろなぜ正しい議論が人々に受け入れられなかったかの方が重要でした。だから、その実現のために政界に入らざるを得なかった」

そう語る著者は、野球史などの研究でも知られる政治史学者。戦後、政治を志した石橋は昭和21年の総選挙では落選したものの、民間人として大蔵大臣で初入閣。公職追放など紆余(うよ)曲折を経つつも次第に政界でも存在感を発揮し、31年の自民党総裁選で岸信介を破るに至った。街頭演説でケインズ経済学を論じ、根回しも苦手という浮世離れした「アマチュア」の石橋が、厳しい権力闘争をどう勝ち抜いていったのか。知られざる政治活動の実態に迫る。

見えてくるのは、見識抜群の好人物ながら実務に疎いゆえに、汚れ仕事もいとわない心酔者が現れ、石橋もその行動を是認していたという構図だ。「石橋は一般に理想主義者と見られていますが、そうしたイメージをいかに打ち破っていくかが課題でした。現実の中で、妥協を身につけていった」。たとえば、憲法第9条も当初は積極支持していたが、朝鮮戦争を受け、国力に応じた防衛力は必要との考え方に転回していく。「現実主義者・石橋」という新しい魅力的な姿を描き出した。(中公選書・2200円)

磨井慎吾(文化部)

【プロフィル】鈴村裕輔

すずむら・ゆうすけ 名城大准教授。昭和51年、東京都生まれ。法政大大学院国際日本学インスティテュート政治学研究科政治学専攻博士課程修了・博士(学術)。著書に『清沢満之における宗教哲学と社会』など。

産経新聞
2023年10月29日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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