<東北の本棚>被災者支援 奮闘の記録

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こんど、いつ会える?

『こんど、いつ会える?』

著者
ほようかんさい [著、編集]
出版社
石風社
ジャンル
社会科学/社会
ISBN
9784883443086
発売日
2021/11/30
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

<東北の本棚>被災者支援 奮闘の記録

[レビュアー] 河北新報

 東京電力福島第1原発事故の影響を受けた福島県などの子どもたちを対象に、被災地から離れた場所で心身を癒やす「保養」の受け入れを行った関西の団体の約10年間の記録だ。キャンプに参加した子どもたちや保護者の声、スタッフの願いや葛藤など「被災地外」で見えたさまざまな人々の思いや現実。事故の影響を伝える貴重な「10年史」の一つと言えるだろう。

 まとめたのは、大阪府、兵庫県など6府県の20グループ以上で構成する「ほようかんさい」(正式名称「保養をすすめる関西ネットワーク」)。団体同士で経験を共有しようと、2014年に発足し、情報交換などを行ってきた。

 グループごとの活動記録を軸に構成。学生や社会人など幅広い有志のチームが、放射線量への不安から外で思い切り遊べない子どもたちに自然を体験をしてもらう夏休みのキャンプなどを企画した。執筆者の一人は、11年の初開催時、子どもたちが草に「触っていい?」と聞いてくる姿に不安の中で過ごす現実を実感したと振り返る。一つ一つの記録から、子ども同士のけんかに対処したり、成長に喜びを感じたり、といった交流の様子も伝わってきた。

 親子で参加する保養は、保護者の休養にもなったという。放射線量について「気にし過ぎだ」と周囲に言われる親が多く、保養は本音を吐露できる場でもあった。障害のある子どもや、児童養護施設の子どもを受け入れた団体の記録からは、幅広い活動の重みを感じさせられた。

 本書によると、保養の大半は民間団体が実施。国などの責任について問題提起し、事故後、全国で行われた保養の概要や財源など、データを交えた解説も盛り込んだ。「阪神大震災で受けた支援の恩返しをしたい」「10年で終わりではない」と記す執筆者ら。関西の人々の思いが伝わってくる一冊でもある。(春)

 石風社092(714)4838=1760円。

河北新報
2022年10月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

河北新報社

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