『地域でアクションリサーチ』
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<東北の本棚>「尊重の連鎖」生み出す
[レビュアー] 河北新報
「地方創生」に代表される地域の政策形成では、とかく「現場で話し合ってください」となりがちだ。声の大きな人やいわゆる「有識者」が幅を利かせた、政府のひな型に沿う数合わせの議論は徒労感しか残らない。面倒がれば、それこそ政府や官僚のトップダウンにお墨付きを与えてしまう。一体どうすればいいのか。
著者は社会学が専門の弘前大大学院教授。少子高齢化や人口減少が進む地域の将来像をテーマに、青森県内各地の会合で助言役を務め、住民たちの声を熱心に聞いた。現場での気付きを紹介しながら、話し合いを通じて「そこでしかない手応えのある計画」に至る道筋を考える。
1940年代に米国で生まれた研究「アクションリサーチ」に著者は着目する。現場の試行錯誤を重んじ、さまざまな立場にある人の知恵をどう引き出すかに主眼を置いた考え方だ。
行政や専門家が先回りし、制度設計や事業化を急いではならないという。あらかじめ示された一律の「解答」よりも、地域の人々が試行錯誤の末に手にした「解法」こそが大事なのだ。
それには、地域の目標を明確に掲げることが不可欠だ。「将来のありたい姿」を描けてこそ、失敗しても「次はこうしてみよう」と柔軟に、持続的に取り組める。戒めるのが「やさしさ」「ふれあい」といった形容語や、「むらづくり」「地域づくり」などの概念だ。これでは具体的にどう試行錯誤を重ねていいのか分からない。著者はこれらを「行政ポエム」と呼ぶ。
多様な意見、発想、願いをすくい上げるには、嫁や若者、移住者ら地域の秩序で「周辺」にある人たちが安心して話せる雰囲気も求められる。相手の声に耳を傾ける習慣が、互いの立場をおもんぱかる「尊重の連鎖」を生むという。
一つ一つの事例が分かりやすく、読むほどに真意が伝わる味わい深い一冊だ。(志)
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農山漁村文化協会03(3585)1142=1980円。