掃除婦に求愛したら夫がいた?! 事実を知った男の行動と結末は

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シャンドライの恋

『シャンドライの恋』

著者
ジェイムズ・ラスダン [著]/岡山徹 [訳]
出版社
角川書店
ISBN
9784042846017
発売日
2000/01/01
価格
817円(税込)

掃除婦に求愛したら夫がいた?! 事実を知った男の行動と結末は

[レビュアー] 吉川美代子(アナウンサー・京都産業大学客員教授)

 意表をつく展開の短編だ。人種も育った環境も違い過ぎる男女の切ない愛の物語。

 わずか26ページの原作を巨匠ベルナルド・ベルトルッチ監督が美しく映像化。シャンドライはアフリカの独裁国家から逃れてローマにやってきた。古い屋敷で住み込みの掃除婦をしながら、医学校に通っている。屋敷の主人キンスキー氏は、裕福だった叔母の遺産で何不自由ない暮らしをしている世間知らずの紳士。ピアニストだが演奏活動はしていない。ある日、シャンドライはキンスキー氏から唐突に愛を告白され、結婚を申し込まれる。動揺した彼女は叫ぶ。「夫を監獄から出してあげて!」。母国には反体制活動で投獄された夫がいたのだ。

 原作の舞台はロンドン。キンスキー氏の屋敷に住まわせてもらい学校に通っている主人公は、南米と思われる国からの亡命者で名前はマリエッタ。夫は軍事政権下の故国で投獄されたまま生死不明。国と名前が違うだけで、ストーリーは同じ。でも、映画に合わせて、原作のタイトルを『シャンドライの恋』としたので、本の中扉には「タイトルにある“シャンドライ”は映画ヒロインの名前ですが、小説では“マリエッタ”であることをお断りしておきます」との断り書きが。シャンドライが出てこないのに『シャンドライの恋』というタイトルには失笑。違和感ありすぎです。

 キンスキー氏が弾くピアノの曲調を実に細かく描写している原作だが、曲名は書かれていない。映画ではバッハ、ベートーヴェン、モーツァルトなどの美しい曲が次々と演奏される。台詞がほとんどない映画なので、音楽が二人の心情を代弁するかのよう。自室ではアフリカンミュージックばかり聴いていた彼女が、やがて彼の奏でる音楽に耳を傾けるようになる。シャンドライを演じるタンディ・ニュートンの表情の変化やしぐさの一つ一つが魅力的。

 夫のことを知ったキンスキー氏は、愛ゆえの驚くべき行動に出る。そして、彼女の決断とその結末は……。原作通り、映画も二人の愛の行方を明らかにしないで終わる。ラストシーン後の物語を作るのは私たち。どうなってほしいですか?

新潮社 週刊新潮
2022年11月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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