『幻の戦争マンガ』
- 著者
- 矢口高雄 [著]/バロン吉元 ほか [著]
- 出版社
- 祥伝社
- ジャンル
- 芸術・生活/コミックス・劇画
- ISBN
- 9784396116637
- 発売日
- 2022/09/01
- 価格
- 1,485円(税込)
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<東北の本棚>にじむ表現者らの怒り
[レビュアー] 河北新報
1970年代と2000年代に発表された5作品を収録した戦争漫画集だ。300万人もの尊い犠牲を出した大戦の教訓から、今日の平和国家を築き上げた日本。不戦の誓いを立てたはずのわが国でさえ、再び戦争に突き進まないと言い切れるのか-。ロシアの侵略によるウクライナ戦争に世界が揺れる今、本書はこう問う。
「釣りキチ三平」で知られる横手市出身の漫画家矢口高雄さん(2020年死去)が1971年、雑誌に連載した「燃えよ番外兵」。「子連れ狼(おおかみ)」をヒットさせ、漫画原作者として活躍した大仙市出身の小池一夫さん(19年死去)が物語を手がけた。
犯罪人を招集した「番外兵」を軸に据えた意欲作だったが、連載打ち切りの憂き目に遭っている。「力量不足もあるが、徐々に気持ちがついえていく」。矢口さんは2005年の河北新報連載「談(かたる)」で、当時の苦悩を振り返っている。
しかし300ページ超の長編として読めば、意外性のあるストーリーについ引き込まれる。確かにラストは唐突だが、ドキリとする問いで締めくくられる。デビュー間もない矢口さんが荒々しいタッチで描く少年兵のたくましさと、心に突き刺さる言葉の数々。生還かなわず、戦場に散った無念さがこれでもかと伝わってくる。
北川玲子さんの「かわいそうなゾウ」は、アニメ映画「火垂るの墓」を見た時のように、読むのがつらくなった。空襲に備えて猛獣を毒殺した東京・上野動物園の史実は有名だが、ゾウを擬人化した北川さんの軽快なタッチが、悲劇を一層胸に迫るものにしている。
バロン吉元さん「黒い隼(はやぶさ)」、木村直巳さん「銃後(15)の春」、川島れいこさん「初恋の桜」と、いずれも読ませる。人が人でなくなる戦争への表現者たちの怒りがにじみ、「人間でありたい」と強く思わされる。(浅)
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祥伝社03(3265)2081=1485円。